肥満の人は増えるばかりなのに座席は小さくなる一方――。アメリカでは旅客機の安全性を巡り当局が国民の意見を募集している。緊急事態が起きた場合、90秒以内に全ての乗客を地上に脱出させなければならないルールがあるからだ。少しでも座席を増やしたい航空会社との利害をどう調整するのか。一方で、忘れられがちなのが、歩行に障害がある乗客を緊急時にどう脱出させるかだ。日本でも真剣な議論が必要なテーマである。
(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)
肥満体系の人が多くなり脱出が困難に?
今、アメリカでは航空機の座席サイズについての議論が起きている。
座席が年々小さくなる一方、肥満の人が増えるなどでアメリカ人の身体が大きくなっており、快適性や安全性について取り沙汰されているのだ。
10月1日のワシントンポスト(電子版)の記事「Americans are larger. Should the FAA stop airplane seats from shrinking?(アメリカ人の身体は大きくなった。FAAは飛行機の座席が小さくなるのを止めるべきか)」によれば、FAA(米連邦航空局)は8月から、民間航空機の座席サイズを「乗客の安全のために必要」として規制すべきかどうか、国民に意見を求め始め、すでに約1万2000の個人や団体が回答を寄せているという。
航空機の座席の幅や前後のピッチは、LCC(格安航空会社)だけではなく、エアライン全体でも世界的に小さくなってきている。それは、より多くの乗客を乗せられるよう座席数を増やしたい航空会社の経営上の理由からである。
ワシントンポストは、疾病対策センター(CDC)のデータとして、平均的なアメリカ人男性の体重は1960年代よりも約30ポンド(約13kg)重い198ポンド(約90kg)となり、女性の平均は170ポンド(約77kg)であることを伝え、人口の約40%が肥満とみなされているとしている。そして、その数は2030年までに人口の半分に達すると予測されているという。
一方で、多くのアメリカの航空会社の座席幅は、約18.5インチ(約47cm)から17インチ(約43cm)に縮小され、前後のシートピッチも平均35インチ(約89cm)から31インチ(約79cm)となり、一部の会社では28インチ(約71cm)となっていることを伝えている。