(杉江 弘:航空評論家、元日本航空機長)
「なぜぶっつけ本番で運転させたのか」
10月13日午前、富士山5合目からの下り坂で乗客・乗員36人を乗せた観光バスが横転し、女性1人が死亡、多数の重軽傷者を出した。事故が起きた「ふじあざみライン」は、ヘアピンカーブと急坂が続き、「本当にバスで走るのは難しい区間」と、都内で30年以上も貸切バスに乗務したベテラン運航管理者も話すほどの難所だ。
事故時点で26歳の運転手は大型バスの運転経験は浅かったという。事故後、多くの国民や識者から出ている声は「事故を起こした会社は、なぜ難しい路線の経験がない運転手にぶっつけ本番で運転させたのか」「下り坂ではエンジンブレーキを使うのが基本ではないか」などなどだ。
詳しい事故原因はまだ調査中であるが、考えられる問題点を航空機の運航と照らし合わせて考察してみたい。
日本の航空機パイロットの場合、乗客を乗せて飛行する路線や離着陸する飛行場は、事前に経験するかビデオで学習することが求められている。小泉政権時代の規制緩和によって、その要件は緩和されたが、実際に行ったことのない飛行場の情報などは必ずビデオで見るほか、資料に目を通すことが義務付けられている。
以前は初めての空港には教官など有資格者と同乗で離着陸する必要があり、路線資格の有効期間も1年と厳しかった。
現在は路線群方式といって、国内線なら路線群のどこか1つの空港で離着陸経験があれば、ほかはビデオを見て資格が取れるようになった。この方式は太平洋路線やアジア路線などほかでも同様だ。