「命さえ助かれば」が優先、けが人への意識は薄い

 残念ながら、シューターを使った90秒ルールによる緊急脱出は、「命さえ助かれば」というのが基本コンセプトであり、けが人を出さないことまでは考えていない。

 一口にけがといっても、腰の骨を折ったり、頭を強打したりすると、残りの人生にも大きな影響を与える。しかし、航空機メーカーもパイロットも、脱出時のけがについては、比較的安易に考える傾向がある。

 本当にけが人も出さないようにするなら、シューターの最下部から地上のアスファルト面に飛び降りる際の危険を除去するために、自動でクッションを地上に敷く仕組みを導入するなどの改良が必要だが、この点については、いっこうに進んでいない。

 パイロットやCAは、この種の訓練を年に1回行っているが、それはシューターの下にマットを敷いて行っており、実際の緊急脱出では、初めにシューターで降りた乗客や地上職員が次々に降りてくる乗客をアシストすることが前提とされている。

 今回の事件もそうであるが、パイロットには「シューターを使っての緊急脱出は必ずけが人が発生する」という認識で、やむを得ない場合を除いて、タラップを準備させるなど地上での支援体制を要請する努力をしてもらいたい。

 航空関係者や保安当局も、パイロットに迅速な情報を伝え、脱出を支援する体制を構築する方法を平時からつくっておくことが肝要だ。

 それに、航空当局と消防、警察などの保安機関との連携のあり方や手順をしっかり確立して、この種の事件に準備しておくことを強く要望したい。