(舛添 要一:国際政治学者)
アメリカで選挙集会での演説中にトランプ前大統領が銃撃された。銃弾は右耳を貫通したが、トランプは元気に選挙戦を続けている。
一方、健康不安が問題になっていたバイデン大統領は、7月21日に撤退を表明し、カマラ・ハリスを後継者に推薦した。
バイデンも言ったように、「銃弾(bullet)ではなく投票(ballot)で」問題を解決するのが民主主義である。しかし、その選挙が生み出す指導者は、理想的な指導者ばかりではない。
お笑い芸人 横山ノック
銃弾ではなく投票で物事を決するほうが良いというのは納得できる。しかし、投票が最善の人を選ぶことができるのかという問いへの答えは、否であろう。それでも、独裁よりもまだ民主主義のほうがましだという消極的理由で、民主主義を選択するのである。そして、政治は結果責任なので、期待した結果がでなければ、次の選挙で自分たちの代表を取り替えるということになる。
この問題を考える例として、大阪府の横山ノック知事、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の選出がある。
漫才師の横山ノック(1932年1月30日〜2007年5月3日、本名・山田勇)は、1968年に参議院全国区に出馬し、当選した。1974年には落選したが、1977年の全国区で再選している。1983年、1989年には参議院大阪選挙区で当選した。
お笑いタレントとしてのテレビ出演による抜群の知名度、とりわけ大阪での人気が当選を可能にしたのである。
参議院では、第二院クラブ、民社党・国民連合に属したが、タレント活動も継続した。しかし、4期24年にわたる国会議員時代に、政治家として大きな功績を挙げることはなかった。
横山ノックは、参議院議員の任期満了直前に大阪府知事選挙に立候補し、1995年4月に当選した。大阪の人はなんという選択をしたのかと、東京では呆れたものである。東京では、横山ノックのようなお笑い芸人が都知事に選ばれるという事態は想像できなかった。