2022年11月18日、北朝鮮は新型ICBM「火星17」の発射実験に成功したと発表した(提供:Office of the North Korean government press service/UPI/アフロ)

(国際ジャーナリスト・木村正人)

 北朝鮮は元日未明、首都平壌の竜城付近から日本海に短距離弾道ミサイル1発を発射した。浜田靖一防衛相は「最高高度約100キロメートルで約350キロメートル飛行し、日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下した」と発表した。北朝鮮は大晦日にも短距離弾道ミサイル3発を発射している。

北朝鮮の年間のミサイル発射数の推移(米シンクタンク「戦略国際問題研究所」のデータをもとに筆者作成)
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 米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)ミサイル防衛プロジェクトのデータによると、昨年、北朝鮮が発射したミサイルは99発を数える。過去最も多かった年はドナルド・トランプ米大統領(当時)が北朝鮮に対し「炎と怒りに直面する」と警告を発した2017年の24発。昨年、金正恩朝鮮労働党総書記はそれより実に4倍以上も多いミサイルを発射した。

 在日本朝鮮人総聯合会の機関紙・朝鮮新報によると、北朝鮮の朝鮮中央通信は、金総書記が12月の党中央委員会拡大総会で、核戦力強化の重要性を強調し、「われわれの核戦力は戦争抑止と平和安定・守護を第1の任務とするが、抑止が失敗した際は、防衛ではない第2の使命も決行する」と報告したと伝えた。

 金総書記は米国を射程に収める新型(固体燃料)の大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発に加え、「韓国が明白な敵となった現在の状況は戦術核兵器の大量生産の重要性と必要性を浮き彫りにしている。核爆弾保有量を幾何級数的に増やすことが求められる」と指摘した。しかしその認識に基づく核戦力と国防戦略の詳しい内容は明らかではない。

超大型MRLSを30基配備

 平壌で大晦日に、口径600ミリメートルの超大型多連装ロケットシステム(MRLS)30基の朝鮮人民軍への引き渡し式が行われ、金総書記は「韓国の全域を射程に収め、戦術核搭載もできる」と胸を張った。この超大型MRLSを使って射程380キロメートルの戦術弾道ミサイルKN-25(固体燃料)を大晦日に3発、元日に1発発射して能力を確認したとみられている。

 米欧から提供された高性能のMRLSと誘導弾がウクライナ戦争の流れをロシアからウクライナに引き寄せたことから、金総書記がMRLSの威力を強調した可能性もある。

 金総書記は昨年2月、ロシアのウクライナ侵攻に乗じて、2017年11月以来、中断していたICBMの発射を4年3カ月ぶりに再開した。昨年は、ジョー・バイデン米大統領の再選を占う重要な米中間選挙があり、金総書記には、ミサイル発射でバイデン氏を揺さぶるとともに、対北強硬派で知られる尹錫悦(ユン・ソンニョル)韓国大統領を牽制する思惑があったのは明白だ。