NATO加盟国の思惑

 NATOに加盟する同盟国は併合を認めていない。だが、祖国を守るためなら核兵器を使うとプーチン氏が繰り返している言明とともに、併合の狙いはロシアの核の傘を占領地域にまで広げることにあった。

 だが実際に併合が強行される間にも、ウクライナ軍はロシアが自国領だと主張する地域に入っていった。

 そのせいで、どちらかと言えば、ロシアによる核の脅しの信憑性は低下した。

 だが、ロシアのレッドライン(越えてはならない一線)を曖昧にすると、偶発的な核兵器の撃ち合いが生じる(わずかな)可能性も多少高くなる。

 停戦と交渉がほどなく実現するのではないかという西側諸国が抱いたかもしれない期待は、併合によって打ち砕かれた。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、プーチン氏の後継者としか交渉しないと話している。

 ウクライナを支援する西側諸国は公式には、2014年以降にロシアに奪われた領土をすべて取り戻すというウクライナの目標を支持している。

 だが、非公式には、ロシアが今年2月24日の侵攻以降に占領した地域と、侵攻以前からロシアを後ろ盾とする自称「共和国」(ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国)が支配していた地域とを区別する国もある。

 クリミアはさらに別のカテゴリーに分類されることが多い。

 ロシアによる現在の侵略を押し返そうとするウクライナの取り組みを支持する国の多くは、クリミア半島を奪還するウクライナの野望を支持することには不安を覚えている。

米英路線と仏独路線にも差

 オランダのシンクタンク、クリンゲンダール国際関係研究所のボブ・ディーン氏は「欧州連合(EU)の内部は、ウクライナはとにかく勝たねばならないという米英路線に従う国々と、ロシアに恥を書かせないことが重要であり、この戦争は交渉で終わるとする仏独路線に従う国々とに分かれていた」と指摘する。

 多くの国は内々に、ウクライナがクリミアを軍事的に奪回できる見込みは薄く、最終的には和平協定の一環としてロシアによる領土併合を受け入れるかもしれないと考えていた。

 米国でさえ、クリミアは別扱いだと示唆することが時折あった。