(英エコノミスト誌 2022年10月1日号)
リズ・トラス首相の新政権はすでに行き詰まった恐れがある。
本来の目的は、経済成長の時代の到来を知らせることだった。ところが英国のクワジ・クワーテング新財務相が9月23日に25分間かけて語ったことは、危機を引き起こした。
国民の光熱費負担を一時的に軽減する措置に加え、財源の裏付けがない450億ポンドの減税を行うという発表は、金融市場をすさまじく震え上がらせた。
減税と緊急支出のほとんどは事前にほのめかされていたが、その財源の捻出に必要なサプライサイド(供給側)改革は騒がれた割には曖昧で、国家財政に対する新政権のアプローチは傲慢だった。
さらに悪いことに、クワーテング氏による壮大な財政破壊が行われたのは、債券市場が不振に陥り、トップクラスの信用力を持つ政府の借り入れコストさえもが押し上げられている最中のことだった。
国債売りにポンド急落の洗礼
投資家が逃げ出すにつれ、英国債の利回りは急上昇した。
看過できなくなったイングランド銀行(中央銀行)は9月28日、金融市場の秩序回復のために期間の長い国債を無制限に買い入れる用意があると表明した。
その前には英ポンドが急落し、対ドルでの史上最安値を更新していた。
ポンド相場はその後反発しているが、市場はまだ、ポンドが米ドルとのパリティ(等価)に至る可能性が40%あると示唆している。
英国と新興国との比較がなされるようになり、国際通貨基金(IMF)はクワーテング氏の計画を痛烈に批判した。
新政権としては記憶にある限りで最悪の船出となった後、世間は早くも、リズ・トラス新首相が一体どれくらいもつか問うようになっている。
保守党党首選挙をもう一度行うのは、容赦ないというよりは馬鹿げている。また、クワーテング氏の予算が国際収支危機に発展することも考えにくい。
英国は変動相場制を採用しており、外貨建ての債務もわずかで、中央銀行は政府から独立している。
ただそれでも、この1週間に生じた経済的・政治的打撃は相当大きい。しかも相当にいら立たしい。