(英エコノミスト誌 2022年9月17日号)

ドイツ経済はかつてない危機に見舞われている(写真はフォルクスワーゲンの本社があるヴォルフスブルク)

産業空洞化の影響は、ドイツ国境の遠い先まで広がっていく。

「ドイツは我々の問題だ(Germany Is Our Problem)」と題した1945年の著作で、ヘンリー・モーゲンソー米財務長官(当時)は戦後ドイツから工業をはぎ取り、農業国に変えてはどうかと提案した。

 この急進的な提案は連合国によるヒトラー降伏後のドイツ占領計画に多少の影響を及ぼしたものの、実行されることはなかった。

モーゲンソーの復讐

 それから80年近い歳月が流れた今、両親がドイツ生まれだったモーゲンソーの構想の一部がウラジーミル・プーチン氏によって実現されることになるかもしれない。

 ドイツの強大な産業基盤が頼りにしている天然ガスを兵器化することで、ロシア大統領は世界第4位の経済大国、世界第3位の工業製品輸出国であるドイツを弱体化させている。

 同時に、ドイツにとって最大の貿易相手国で、自動車、医療機器、化学製品などのドイツ製品を昨年1000億ユーロ購入した中国が深刻な景気減速の最中にあることも響く。

 部分的に、ある独裁国家からの安価なエネルギー供給と別の独裁国家からの旺盛な需要の上に築かれたドイツのビジネスモデルが厳しい試練に直面している。

「ドイツ株式会社」にとって悲惨な結果になりかねない。

 今年の市場の混乱において、ドイツの優良企業はほかの国々の優良企業よりも痛めつけられた。

 優良銘柄の株価は今年1月以降、米ドル換算ベースで27%下落しており、英FTSE100種指数や米S&P500株価指数に比べて2倍近い落ち込みになっている(図参照)。

揺らぐドイツ株式会社

 経済団体のドイツ産業連盟(BDI)を率いるジークフリート・ルスヴルム会長は先月、「我が国の工業の根幹が脅威にさらされている」と警鐘を鳴らした。

 そして多くの企業にとって、状況が「有毒」に見えると語った。

 この毒はグローバルなサプライチェーンを通じて、ドイツの製造業者に大きく依存しているほかの工業国に広がっていく恐れがある。

 ドイツの工業にとって目下最大の問題は、エネルギーコストがスパイラル的に高騰していることだ。

 BDIによれば、来年の電力料金はすでに15倍に値上がりしており、ガスの価格も10倍になっている。

 工業全体の7月のガス消費量は前年同月比で21%減少した。これは企業がエネルギーを効率よく使ったためでもある。

 だが、大半は生産の「劇的な」減少によるものだとBDIは述べている。

 シンクタンクのキール世界経済研究所(IfW)は6月以降、2022年の国内総生産(GDP)成長率予想を0.7ポイント引き下げ、1.4%に修正している。

 今では、ドイツ経済が2023年に縮小し、インフレ率が8.7%に高まると予想している。