(英エコノミスト誌 2022年9月3日号)
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新刊書が米国に対し、衰える中国は強い中国よりも台湾を侵攻する可能性が高いと警告している。
米国と中国にとって、戦争が始まる危険が最も大きくなるのは、いつか。
中国の指導者たちが「中華民族の偉大なる復興」と「世界一流の軍隊」を約束している2049年頃だろうか。
あるいは、中国指導部が「国防および軍隊の近代化を基本的に完了する」ことを目指している2035年か。
それとも、米軍幹部らによれば中国が台湾を侵攻する手段を持つことを目指している2027年だろうか。
「トゥキディデスの罠」を覆す解釈
米国の2人の地政戦略家が著した新刊書によれば、差し迫った危険は「今」だ。
ジョンズ・ホプキンス大学のハル・ブランズ氏とタフツ大学のマイケル・ベックリー氏は新著『Danger Zone: The Coming Conflict With China(危険地帯:迫り来る中国との紛争)』で、世界の二大大国が競っているのは10年間の短距離走であって、別の著作の題名が示唆するような「100年マラソン」ではないと論じている。
中国はまもなく「急降下」するか、そうでなければすでに衰退過程に入っているかもしれないと主張している。
そのために事態はより危険になっている。中国は近々、まだ実行できるうちに台湾を制圧しようとするかもしれない。
こうしてブランズ、ベックリー両氏は「トゥキディデスの罠」をひっくり返す。
古代に新興国アテネとそれを恐れたスパルタが戦争に至ったのと同じように、中国と米国が戦争する運命にあると論じたハーバード大学のグレアム・アリソン教授によって広まった説のことだ。
ブランズ氏とベックリー氏によれば、トゥキディデスのアテネは新興国ではなく、衰退を避けようとして戦っていた大国だった。
大日本帝国が経済発展を阻まれることを恐れた結果、1941年に真珠湾を奇襲攻撃するに至ったことが、そのような「ピークを迎えた強国の罠」の一例だという。