最も大きな資金がつぎ込まれるのは、人工衛星を防衛(あるいは攻撃)する能力の引き上げや、長距離対艦ミサイルの購入拡大、同盟国との情報共有ネットワークや新しい戦闘構想をテストする施設を伴う「キャンペーン(軍事行動)」の有効化だ。

 連邦議会はこれらの大半を受け入れる公算が大きい。

 上院と下院の委員会が承認を推奨した額は、バイデン政権が要求した予算額8020億ドルを上院で450億ドル、下院で370億ドル、それぞれ上回っている。

勢力バランスの変化よりも政治の変化

 米国のシンクタンク、ジャーマン・マーシャル・ファンドのボニー・グレイザー氏に言わせれば、紛争を引き起こしやすいのはパワーバランスの変化よりも政治の変化の方だ。

 中国軍の準備が十分でなかったとしても、習氏がもし、台湾は独立に向かって動いており、中国共産党に屈辱を与えていると感じたら、開戦に踏み切ることをためらわない。

 だが、台湾はまだ離れようとしていないと習氏が感じているのであれば、台湾をトワイライトゾーン――事実上自治を行っているが、主要国からは独立国として認められていない状態――に置いておく現状にしばらく甘んじるとグレイザー氏は考えている。

「習氏が台湾再統一を成し遂げなかった場合に共産党が崩壊するとは思わない」と言う。

 従って、次の危機を生み出す可能性があるのは政治日程なのかもしれない。

 習氏が3期目続投を決めると見られている10月半ばの中国共産党大会は、台湾に対する習氏の意図をもう少し明らかにする可能性がある。

 また、この秋にアジアで行われる一連の首脳会談は、中国とロシアがどこまで協力し合えるかを知る手がかりになるかもしれない。

米国と台湾の選挙にも注目

 米国では超党派の台湾政策法案が議会で審議されている。

 ここには、台湾は「北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要同盟国」だと宣言し、台湾の外交使節に大使と同等な位を付与するなど、中国を刺激する措置が含まれている。

 11月の米中間選挙では、民主党が上院か下院(もしくはその両方を)タカ派色を強める共和党に奪われる恐れがある。

 同様に、ホワイトハウスも2024年の選挙で共和党の手に渡るかもしれない。

 その2024年には台湾の総統選挙が行われる。そこで独立推進派の新総統が誕生し、米国からも承認を取り付けたりする可能性はないのだろうか――。

 そういう見通しが戦争の真の引き金になりかねないとグレイザー氏は語っている。