(英エコノミスト誌 2022年8月13日号)

ウクライナへの供与が取り沙汰されている「F-16」戦闘機(米空軍のサイトより)

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答えは誰にも分からない。バイデン大統領がより強力な兵器をウクライナに供与するのに慎重なのはそのためだ。

「『不可能』とは『将来可能になる』という意味だ」

 ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相による機知に富んだ発言だ。

 なるほど、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナの領土の一部を初めて奪った2014年、米国は対戦車ミサイル「ジャベリン」の供与を禁じていた。

 ところがこの兵器は2017年から少しずつ持ち込まれるようになり、今年2月にロシアが再びウクライナに侵攻すると、せきを切ったように流入した。

 同様に提供を拒まれていた地対空ミサイル「スティンガー」も、3月にウクライナに到着した。

 そして6月には待望のロケット砲システム「ハイマース」が稼働し始め、ロシア軍の前線のはるか後方にある戦闘司令所や弾薬庫を攻撃している。

 戦闘機「F-16」もいずれ投入されるかもしれない。

もっと大量の兵器を早く届けないワケ

 欧米諸国はウクライナの闘志を称えている。そう考えると、なぜもっと大量の兵器をもっと早く届けないのかという疑問が生じる。

 米国が先日まとめた10億ドル規模のウクライナ向け軍事支援パッケージにはハイマースの弾薬が盛り込まれているが、ハイマース自体の提供を現在の16基からさらに増やすことは計画されていない。

 多くの専門家が16基では足りないと考えているにもかかわらず、だ。

 これに対する政府当局者の答えはまちまちだ。

 西側は最も緊急性の高い兵器の供与を優先している、新しいシステムを使用・維持管理するには訓練が必要だ、ウクライナ軍が戦闘で効果的に使用できるところを見せてもらわねばならない――といった具合だ。

 しかし、米国が慎重になっている最大の理由は、事態がエスカレートする懸念だ。

 ロシアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国を軍事攻撃するかもしれない(いわゆる「水平方向のエスカレーション」)し、ウクライナで化学兵器や核兵器を使用するかもしれない(「垂直方向のエスカレーション」)。