負けを認めるくらいならエスカレートする?

一方、プーチン氏は敗北を認めるくらいなら事態をエスカレートさせると警戒する向きもある。

 米国防総省に近いシンクタンク、ランド研究所に籍を置くサミュエル・チャラップ氏は、ロシア軍にはまだ余力があると指摘する。

 空軍力も今以上に投入できる可能性があり、西側がウクライナを支援すればするほど、ロシアは緊張をさらに高める。

「安定した均衡など存在しない」とチャラップ氏は主張する。「事態はゆっくりと、着実にエスカレートしている」。

 歴史を振り返ると、国は(多少の脅威があるとはいえ)核の報復に見舞われることなく、核保有国に対する代理戦争を仕掛けられることが分かる。

 1970年代にソビエト連邦と中国が北ベトナムを後押しして米国と戦ったことや、1980年代に米国がそのソビエト連邦を痛めつけようとアフガニスタンのムジャヒディンに武器を提供したことを思い浮かべるといい。

ロシアのドクトリンに見る核兵器使用

 ロシアは公表済みのドクトリンで、核兵器を使用するシナリオを次のように4つ想定している。

(1)ロシアまたはその同盟国に対する弾道ミサイル攻撃が探知された場合

(2)ロシアまたはその同盟国に核兵器またはそのほかの大量破壊兵器による攻撃が行われた場合

(3)ロシアの核兵器指揮統制システムを脅かす行動が取られた場合

(4)「ロシア連邦が通常兵器で攻撃を受け、国家の存立そのものが脅かされる場合」だ。

 西側によるウクライナへの武器提供は、これらのレッドラインには遠く及ばない。

 ただ、フランスのシンクタンク「戦略研究財団」のブルーノ・テルトレ氏は、国家存立の危機という概念は弾力的だと指摘する。

 プーチン氏はウクライナを「生きるか死ぬかの問題」だと表現した。