(英エコノミスト誌 2022年9月10日号)
あらゆる兆候を見る限り、現職のボルソナロ大統領が選挙に敗れ、自分が勝ったと主張する展開になりそうだ。
ジョー・バイデン米大統領は9月1日、「選挙には2つの結果しかない、自分たちが勝つか不正のために負けるかのどちらかだ――片方の陣営がそんなことを考えていたら、民主主義は存続し得ない」と警告した時、米国について話していた。
ブラジルについて語っていたとしてもおかしくなかった。
ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領は来月、あらゆる世論調査が現職敗北を示唆している選挙に臨む。
当人は「クリーンかつ透明な」選挙であれば、その結果を受け入れると述べている。実際、そのような選挙になる。
ブラジルの電子投票システムはしっかり運営されており、不正行為を働くのは難しい。
敗北後をにらんで下準備か
だが、落とし穴がある。
ボルソナロ氏は、世論調査が間違っている、自分は選挙戦を優位に進めていると言い続けているのだ。
また、同氏は繰り返し、自分に不利になるように何らかの方法で選挙が操作される恐れがあるとほのめかしている。確たる証拠は何も示していないが、多くの支持者はこの主張を信じている。
どうやらボルソナロ氏は、投票はインチキだと声を上げて有権者の審判を否定するための下準備をしているようだ。
そんなことになったらボルソナロ氏は暴動を扇動しかねないと、ブラジル国民は懸念している。
ドナルド・トランプ氏の支持者が2021年1月6日に暴徒と化してワシントンの連邦議会議事堂を襲撃した時のような騒ぎ、さらには、それよりもひどい事態になるのではないかと恐れている。
ボルソナロ氏がトランプ氏の無節操な戦術をまねるかもしれないと懸念されるのは、以前からたびたびそうしてきたからだ。
自ら分断の種をまき、相手側は間違っているだけでなく邪悪だと決めつける。批判を受ければ「フェイク・ニュース」だと切り捨てる。
人としての本能もトランプ氏のそれと同じくらい権威主義的で、ブラジルの軍事政権時代を懐かしそうに語る。