(英エコノミスト誌 2022年9月10日号)

英国のリズ・トラス新首相(9月9日、セントポール寺院で、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

成功するつもりなら、新首相は見せかけの急進主義を慎む必要がある。

 英保守党の党首選挙を戦っていた時、リズ・トラス氏の選対事務所が「初日から墜落する」という約束をツイートした。

(編集部注:勢いよく走り出すことを意味する「hit the ground running」という言い回しからrunningが抜けていた)

 あちこちで物笑いの種になり、すぐに修正されたものの、この書き込みは図らずも、英国の新首相が直面する問題の大きさをとらえていた。

 ダウニング街10番地(首相官邸)に落ち着いたトラス氏は、とてつもない大仕事に取り掛からなければならない。

多難な船出

 優先順位の高い問題が山積みになっている。

 ほかの欧州諸国の場合と同様、その山の頂にあるのはエネルギー危機だ。英国の窮状は、ほかの多くの国々と比べてもひどい。ガスへの依存度が高いことがその大きな理由だ。

 インフレはすでに2ケタに突入しており、2023年には20%を超えるかもしれないと予想する人もいる。

 トラス氏が党首選挙に勝つ少し前にシンクタンクのレゾリューション財団が出した予測によれば、この物価上昇による実質所得の減少は2003年以降に実現した賃金上昇をすべて帳消しにする。

 物流ネットワークと刑事裁判システムはストライキで打撃を被っている。国民医療制度(NHS)の一部も混乱しており、救急外来で12時間以上待たされる患者の数は1日1000人近くに上っている。

 こうしたことすべての根底にあるのは、英国の経済成長と生産性をてこ入れする難しさだ。

 どちらも15年にわたって低空飛行を続けており、生活水準を押し下げ、公的サービスの質を低下させている問題だ。

 今のところ2025年1月に予定されている次の総選挙までにこうした問題をすべて片付けることは誰にもできない。だが、トラス氏はせめて、こうした流れを変え始められるだろうか。