(英エコノミスト電子版 2022年10月6日付)

プーチン氏の場当たり的で強引な併合政策がブーメラン効果をもたらす可能性がある

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突如、プーチン大統領がロシア国境をどこだと考えているのかが誰にも分からなくなった。

「祖国はどこから始まるか?」

 これは国家保安委員会(KGB)を称えるソ連時代の映画で使われた愛国的なテーマソングのタイトルで、ウラジーミル・プーチン大統領のお気に入りの曲の一つだ。

 2010年には、ある慈善コンサートで大統領自らこの曲をピアノでたどたどしく演奏した。またロシアがウクライナのクリミアを占領した2014年には、ちょっとしたリバイバルも果たしている。

 その曲が10月初め、皮肉な含みを帯びることとなった。

 ロシア議会がウクライナ東部および南部の占領地域を正式に併合したことで、「祖国」が正確にどこから始まるのか、ロシア政府が確信を持って答えられなくなったのだ。

 公式には、ロシアはドネツク、ルガンスク、ザポロジエ、ヘルソン各州を編入したと主張している。

 だが、4州のうち、ほぼ完全にロシアの支配下に入っているのはルガンスクだけだ。

併合地域でも分からない線引き

 9月23~27日にこれ見よがしに行われたインチキ住民投票によって併合が建前としては正当化されているものの、施政下に置かれていない地域については住民に意見を聞いたふりをすることさえできない。

 いくつかの地域ではウクライナ軍がみるみるうちに前進しており、前線は流動的だ。

 10月3日、ロシア議会が投票の準備を進めている時に、ドミトリー・ペスコフ大統領報道官が記者団に対し、ヘルソンとザポロジエの2州についてはどの地域がロシアの一部になったのか正確に言えないと述べた。

「政府としては地元住民との対話を継続していくつもりであり、それは住民の意向次第になる」

 この発言が混乱を引き起こした。

「こんなことは何世紀以来だろうか。ロシアが国の西側に、一般に認められた国境を持っていない」

 フィンランド国際問題研究所のロシア人研究者、アルカディ・モシェス氏はこう語る。

「ウクライナが入り込んでくる地域とそうでない地域があることを考える場合、どこに線を引けばよいのか」

 ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)加盟国から、西側から供与された武器でロシア領内を攻撃しないようクギを刺されているが、ロシアは今、ウクライナ領内の広い地域も自分たちの領土だと考えている。