クリミア半島は別格

 クリミア併合を承認している国は数えるほどしかない。ニカラグアやシリアなど、ロシアの昔からの属国が中心だ。

 しかし2014年から2022年まで、クリミア併合に対する西側の対応は比較的穏当な制裁に限られていた。

 一つの理由は、一部の国の政府が内心では、ロシアの主張をいくらか信用したためだ。

 欧州の外交官たちは内輪の場でよく、ウクライナ国内で自治領の地位を享受していたクリミアはロシア支配の歴史が長く、住民もロシア系が主体だと指摘した。

「多くの外交官は、たとえ住民投票が自由かつ公正に行われていても、ほとんどの人がロシア編入に賛成票を投じただろうと考えていた」と前出のディーン氏は語る。

 同氏は当時、クリミアで欧州安全保障協力機構(OSCE)のアドバイザーを務めていた。

 もしウクライナの戦争が膠着状態に陥ったら、このような見方が再び前面に出てくる可能性がある。クリミアがロシア領のままになり、停戦の可能性が生まれるかもしれない。

 シンクタンク、ドイツ国際安全保障問題研究所のヤニス・クルーゲ氏は「ドイツ政府が思い描く理想の結果は、ロシアが2月24日時点の国境線まで押し戻され、何らかの話し合いがもたれることだ」と語る。

目先は戦況の行方がすべて

 だが今のところ、重要なのは唯一、戦況がどのように展開するかだとクルーゲ氏は付け加える。

 もしロシアがひどく劣勢になってクリミア陥落の可能性も出てくるようになれば「プーチンは恐らく、もう姿が見えなくなっているだろう」。

 ウクライナ軍は10月4日、ヘルソン州を勢いよく南進し続けた。ロシアは防衛線をあちこちで破られた模様だ。

 失った領土をすべて奪回するウクライナの目標はもはや、とても達成不可能なものには見えない。