大学修学能力試験での子どもの成功を祈る人々(写真:AP/アフロ)

(田中 美蘭:韓国ライター)

 先日、韓国中部の地方都市で、20代の男性が「就職先が見つからない」と家族に悩みを打ち明けた後、自宅から失踪。その後、死亡しているのが見つかり、警察は自殺と見て死因を含め捜査をしているとのニュースがあった。韓国では、こうした学生や20代の若者が学業や就職を苦に命を絶つケースが後を絶たない。

 日本でも若者の自殺は深刻な社会問題になっているが、日本ではいじめやパワハラなど人間関係の悩みによる原因が多いという印象だが、韓国の場合は進学(学業)や就職といった進路に関する悩みによって命を絶つケースが多い。

 韓国では、時として学歴や家柄を「黄金チケット」や「金の匙」などと称する。そして、「名門大学を出て優良企業に就職すること」を意味する「黄金チケット」こそが現在の韓国を衰退させているという指摘がある。

「韓国の学歴至上主義は儒教時代の科挙試験の名残だ」とも言われるが、学歴、ひいては進学、就職先のネームバリューにこだわるがあまり、労働力の減少にもつながっているのだ。

 また、加速度的に進む少子高齢化などにより、大学受験および大学経営にも変化が出始めている。時代が変化しているにもかかわらず、学歴至上主義と黄金チケットの柵から抜け出せないでいる韓国の現状とは、いかなるものであろうか。

 筆者は過去に何度も韓国の若者の就職事情について記事を書いたことがある。その際に毎回指摘しているのが、学歴というプライドがその後の進路選択の邪魔をしているということである。つまり、「大卒」という肩書があるがゆえに就職先についての理想値が高くなり、選択肢を狭めてしまっている。

 現に、サービス業や肉体労働的な仕事を「大卒なのにこんな仕事はできない」と言って敬遠する、せっかく職を得てもすぐに離職するという話をよく耳にする。人手不足で人材を求めているのに、応募者が来ないという職場も実は多い。名の知れた大企業でなければ嫌だ、ホワイトカラーの職でなければ嫌だという選り好みがある。

 そのような話がありふれているために、韓国のドラマや漫画には「就職準備中」と称して公務員試験の勉強を重ねている登場人物がかなりの頻度で登場する。韓国にはそうした若者が多いことを示している。