上海のコーヒー事情を語っていただいた三叶屋咖啡の高橋丈一郎氏

――現在上海が中国のコーヒー中心地となっていますが、なぜでしょうか。

高橋氏:上海が、多国籍の文化に触れる機会に恵まれていたためです。私たちの店舗がある外灘(ワイタン、バンド)も、以前から外国人が多く住んでいた地域です。

――海外文化に触れる機会ということでは香港も同様ですが、香港発のコーヒーブランドをあまり聞きません。

高橋氏:香港の場合、店舗の賃貸料が高く、個人経営の店舗は厳しいでしょうね。そのため、大手チェーン以外は、コーヒービジネスが成立しにくいといえます。

 一方、上海では20~30万元(約400~600万円)の初期投資である程度の面積の珈琲館を開店できます。やる気のある若者なら自分で開店資金を用意することもでき、ビジネスが始めやすいのです。

――上海の珈琲館は大手チェーン以外にも独立店舗が数多くあります。この傾向はいつから本格化したのでしょうか?

高橋氏:2017年に私たちが上海に来た当初、ハンドドリップのように手の込んだ方法でコーヒーを提供する店舗は少数派でした。その後ハンドドリップが普及し始め、コーヒーの高級化が進みました。私たちのコーヒーは90元(現在のレートで約1800円)前後の価格帯が中心で、当初はお客様より「高いのではないか」というご指摘もいただきましたが、2020年ごろにはそういった声も減ってきました。豆にこだわることで1杯300元というコーヒーを出す店も上海にはあります。

 2020年ごろにMannerというコーヒーブランドが広まり、上海の人のコーヒーに関する認識が変わったと思います。Mannerは20~30元の商品を主流にしており「コーヒーも安く楽しめるんだ」という、認識が広がりました。

――コーヒーは気軽に楽しめるものだ、ということですね。

高橋氏:ラッキンコーヒーなど出前に特化しているビジネスのおかげもあり、コーヒーを楽しむ層は広がっています。また味に対する要求水準が上がったことで、雲南省産のコーヒー豆の品質も上がってきました。