秋夕の連休で帰省する人々(写真:AP/アフロ)

(田中 美蘭:韓国ライター)

 韓国の伝統行事に、「名節(ミョンチョル)」と呼ばれる豊作を祈願する季節毎の行事がある。その中でも、現在なお受け継がれている代表的なものが秋夕(チュソク=旧盆)とソルラル(=旧正月)である。

 これらは先祖供養として行われている側面もあり、陰暦のために毎年日にちが移動する。今年は9月9~12日までが秋夕に当たり、連休となっている。

 一見すれば、伝統が大切に守られているようにも思えるが、その裏には、社会問題になるような様々な問題を抱えている。

家庭不和と分断を引き起こす先祖供養のための伝統行事

 先日、韓国第2の都市・釜山で60代の女性が夫に「名節のお供え料理を準備するのはもうやめよう」と言ったところ、これを拒否した夫と口論になり、女性が夫を刃物で刺し負傷させるという事件が起こった。

 この事件はあくまで警察沙汰になったがゆえに世に知られることとなったが、韓国では、この名節の時期になると大なり小なり夫婦間で争いなど問題が起こるのは決して珍しい話ではない。

 前述の事件では、加害者の女性に対して、主婦の立場である女性たちからは同情の声が聞かれた。その理由は「名節によるストレス」が背景にある。

 実際に今年1月のKBSの報道では、地方都市・大邱のケースを挙げ、「名節中の家庭内暴力による警察への通報件数は1日平均40件前後にのぼる」と伝えた。通報件数は年々、増加傾向にあるとのことだ。また、名節の連休の後に疲労や精神的なストレスから体調を崩す「名節症候群」という言葉まで定着している。

 毎年、名節の前後になると、韓国人、日本人問わず友人と顔を合わせると、決まってこの伝統行事と義実家に対する愚痴のオンパレードとなる。

「民族の大移動」と呼ばれる帰省ラッシュの中、義実家を訪問し、嫁の立場である女性陣は台所に立ち、茶礼(チャレ)という先祖を供養する儀式でお供えする大量の料理を準備しなくてはならない。

 男性陣はその間、お酒を飲んだり、花札をしたりしながらまったりと過ごすのが「よくある光景」である。