様々な問題が浮上している香川照之氏(写真:Pasya/アフロ)

 酒癖が悪いことで有名だった──。銀座での「性加害」報道で降板が相次いでいる香川照之氏について、その酒乱ぶりは業界関係者の間でよく知られたことだったという。そんな証言が報じられるたび、一つの素朴な疑問が浮かぶ。

 トヨタをはじめとする大企業はなぜ、夜の素行不良が有名だった香川氏を広告塔に起用していたのか、ということだ。

 企業のサイバーセキュリティ対策やリスクコンサルティングを担う「脅威分析研究所」の代表、高野聖玄氏が企業による盲目的なタレント起用のリスクを指摘する。

M&Aのデューデリは必死なのに……

(高野 聖玄:脅威分析研究所代表)

 M&Aにおいて、企業は買収先に関するデューデリジェンスに必死です。「収益力はどれくらいあるのか」「既存事業との相性や相乗効果は見込めるか」といったことについて、時間とお金をかけて徹底的に調べ上げます。

 こうした財務的な分析はもちろん、最近は非財務的なリスクにも非常に神経質です。「買収先にウラの世界とつながっているような人物はいないか」「ネット上に出ている経営者の悪評は本当か」といったリスクです。当社にも、経営幹部やその周辺にいる個人に関するディープな情報を調べてほしいという相談が寄せられます。

 このようにM&Aの際にデューデリを徹底するというのは、ある意味で当然のことと言えます。異なる組織を内に取り入れ、これから一体となって事業に邁進しようということですから、事前にあらゆる観点から調べておきたいというのは自然なことでしょう。

 ところが、です。企業が広告塔として芸能人を起用する際のリスク調査というのは、ほとんど聞いたことがありません。

 外部のリソースを取り入れて企業の力を高めるという意味では、M&Aも芸能人起用も同じです。それなのに、買収先は徹底的に調査・分析する一方で、芸能人の「身体検査」はしない。「芸能人起用のデューデリジェンス」という観点が、現状では全く抜け落ちてしまっていると言えます。

 企業の芸能人起用にあたっては、表面的な好感度とイメージだけが基準になっているのが現状で、広告代理店に問題がないか確認する程度で済ませてしまうケースがほとんどです。

 いまや次々に問題が報じられる香川氏ですが、少し前までクリーンなイメージで、大人から子供まで高い人気と知名度がありました。