田中角栄(1983年12月/写真:Haruyoshi Yamaguchi/アフロ)

 夏の参議院選挙が近づいてきた。各党の動きが本格化するなか、候補者がどんな政策を打ち出し、どんな個性を持っているかに有権者も注目していることだろう。政治家の人間性を見極める要素は人それぞれだが、日頃から食している「好物」に着目してみると意外な一面が見られるかもしれない。『偉人メシ伝「天才」は何を食べて「成功」したのか?』(笠間書院)を上梓した偉人研究家の真山知幸氏が、歴代総理大臣の“政治家メシ”を紹介する。

「目玉焼き」と「湯豆腐」が好物だった吉田茂

 岸田文雄首相は、自民党第27代総裁に選出された日(2021年9月29日)にツイッターで、こんな発信をして話題になった。

「帰宅すると、妻の裕子がお好み焼きを作ってくれていました。インスタライブで私が、『妻の作ってくれるお好み焼きが大好きです』と言っていたからです」

 写真に写り込んだソースのボトルの賞味期限が少し切れていたことも「庶民的」とされたが、過去にも素朴な料理を好んだ総理大臣は意外と多い。その一人が、戦後の日本を復興へ導いた吉田茂である。

吉田茂(写真:AP/アフロ)

 食事について「好きなものは何ですか?」と聞かれたときに「おいしいものが好き」とシンプルに答えた吉田。大好物は目玉焼きと湯豆腐である。そのほか、ハンペン、芋の煮っころがしなども好きだった。ハンペンはわさび醤油をつけたり、お吸い物にしたりして食べるのがお気に入りだった。総理大臣になる前は、外交官として各国の料理を楽しんだが、その一方で、庶民的な食べ物が舌に合ったようだ。

 また、吉田は、家族が集まる団らんの場として、食事の時間を大切にしていた。吉田の孫で自身も首相を務めた麻生太郎が、こんなふうに振り返っている。

「祖父の好みは、明治の人らしく質素であったが、食事は大切にしていた。外食を好まず、必ずといっていいほど大磯の自宅で食事をとった。子どものころ、大磯に遊びにいくと、祖父はいつも着物に袴でテーブルに向かっていた。私たち麻生の家族と一緒に食事をする機会も多かった」(麻生太郎『麻生太郎の原点 祖父・吉田茂の流儀』より)

 ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサは、「世界平和のために何かできることがありますか?」と聞かれると「家に帰って家族を大切にしてあげてください」と答えていたという。戦争の悲惨さを知る吉田も「国家の平和は家庭の平和から」と考えていたのかもしれない。