プロローグ
ロシア軍のウクライナ侵攻後の油価上昇
ロシア軍は2022年2月24日、ウクライナに全面侵攻開始。ロシア軍侵攻後、油価は上昇しています。
しかし、大幅上昇しているのはロシア(露)の代表的輸出原油ウラル原油以外の原油です。
石油と原油は内容が異なります。しかしこの点を理解していないマスコミ報道が多いので、本稿では石油とは何か、ロシア産ウラル原油とは何か、油価とロシア産石油・ガス輸出の現状を考察したいと思います。
地下数千メートルから採取される原油は鉱区別に性状・品質が異なるので、油価は異なります。
比重で大別すると、重質油・中質油・軽質油になり、コンデンセート類(天然ガス液など)のように超軽質油(別名「天然ガソリン」)の品種も存在し、通常の原油より高値で取引されています。
露ウラル原油は中質・サワー原油(硫黄分含有量1%以上)なので、軽質・スウィート原油(硫黄分0.5%以下)よりも安くなります。
従来の値差は1バレル3~4ドル程度でしたが、今では値差10倍以上になりました。
直近の露ウラル原油と北海Brentの値差は1バレル41ドルになっており、これは露ウラル原油が世界市場で敬遠されていることを示しています(後述)。
2022年のロシア国家予算案想定油価(ウラル原油)は1バレル62.2ドルですから、この油価を割るとロシア国庫財政問題が表面化するでしょう。
仮に欧米諸国がロシア産石油・ガスの輸入を従来通り継続すれば、ロシア国庫には石油・ガス税収が入り続けることになります。
しかし、欧米諸国はロシア産石油・天然ガスの全面禁輸を検討しており、欧州諸国は今年末までにロシア産石油輸入を9割削減する方針です。
この構想が実現すれば、ロシア国庫に入る石油・ガス税収は激減します。
この場合、ロシア軍が現在の大規模軍事作戦を継続すれば早晩国庫(貯蓄分)は払底し、あとはルーブル輪転機を回すことになるでしょう。
その結果、ロシアではハイパーインフレが発生して、ロシア国民の不満が高まり、国内が流動化することも予見されます。
ロシアの金・外貨準備高は約6000億ドルありますが、資産凍結されており、実際の流動性資産は2000億ドル程度と言われています。
ロシア国民福祉基金資産残高も減少しており、早晩、戦費補填も困難になるでしょう。
ウクライナ問題を巡り、最近は「対露経済制裁は余り効果がない」という見解が多いのですが、これは事実と異なります。
実務の世界では、欧米による対露経済制裁は大いなる効果が出ています。
もちろん、対露経済制裁措置強化が直ちにロシア軍の停戦・撤退をもたらすものではありませんが、ロシア経済に対してボディーブローのように効いています。
ロシア大統領は毎年大統領年次教書を発表することになっていますが、2021年の年次教書は未発表です。
毎年6月恒例の「国民との直接対話」も延期されました。健康問題が背景にあると推測されますが、実態は「国民との対話」どころではない深い事情があるのでしょう。
6月12日の「ロシア国家主権宣言の日」の大統領演説内容も注目されます。付言すれば、よく誤解されるのですが、この日は「ロシア独立宣言日」ではありません。
プーチン大統領の命運と今後のロシア経済を考える上での重要なポイントは油価です。
結論を先に書きます。露ウラル原油の油価低迷はV.プーチン大統領失脚の引き金になり、旧ソ連邦崩壊と同様、ロシア連邦崩壊も視野に入ってくることでしょう。