(英エコノミスト誌 2022年5月21日号)
戦争のために脆弱な世界が大飢饉に陥ろうとしている。この事態の収拾は世界全体の問題だ。
ウクライナに侵攻したことで、ウラジーミル・プーチン大統領は戦場から遠く離れた人々の暮らしを破壊する。それも自分が後悔するかもしれないほどの規模で、だ。
今回の戦争は新型コロナウイルス感染症、気候変動、そしてエネルギー・ショックによって弱体化していた世界の食糧供給システムに大きな打撃を与えている。
ウクライナからの穀物や油糧種子の輸出はほとんど止まり、ロシアのそれも脅かされている。
カロリーベースで見るなら、世界に輸出される食糧の12%は両国で作られている。
今年に入って53%上昇していた小麦の価格は、インドが恐ろしい熱波を理由に輸出の停止を発表した5月16日に、さらに6%跳ね上がった。
生活費危機どころではない惨事の影
生活費上昇の危機だという広く受け入れられた見方は、行く手に待ち受けているかもしれない事態の深刻さを全くとらえていない。
国連のアントニオ・グテレス事務総長は5月18日、何年も続く恐れのある「世界的な食糧不足の影」が向こう数カ月で姿を現すと警鐘を鳴らした。
すでに、必需食品の高騰は、十分な食べ物が入手できるかどうか分からない人の数を4億4000万人増の16億人に押し上げている。
飢饉の瀬戸際に立たされている人も2億5000万人近くに上る。
大方の予想通りに戦争が長引き、ロシアとウクライナからの食糧供給が限られたものにとどまれば、数億人もの人が貧困に陥りかねない。
政情不安が広がり、子供たちの発育が妨げられ、人々が飢えることになるだろう。
プーチン氏は食糧を兵器として使用してはならない。
食糧不足は必然的な戦争の結果ではない。世界の首脳たちは飢餓を、世界的な解決策が早急に求められる世界全体の問題としてとらえ直す必要がある。