(英エコノミスト誌 2022年4月30日号)
億万長者のイーロン・マスク氏はオンラインの言論をもっと自由にすると約束している。事はそう簡単ではない。
世界一の富豪のイーロン・マスク氏は、米ツイッターを「事実上の公開広場」だと形容したことがある。
そのマスク氏が4月25日、ツイッターを買収して非公開企業にする取引をまとめた。
自動車メーカーのテスラやロケット打ち上げのスペースXといった企業を経営する同氏は、買収代金の約440億ドルをすべて現金で支払うと提案し、自己資金を210億ドルかき集める一方、所有するテスラ株を担保に125億ドルを借り入れた。
これは史上最大級の企業買収案件になる。
そしてツイッター買収がビジネスの面で大きな取引だとしたら、オンラインでの言論の将来にとってはそれ以上に大きな出来事かもしれない。
ビジネスとしての魅力は二の次
ツイッターは明らかに魅力的なビジネスだというわけではない。
デイリーユーザー数は2億1700万人で、世界最大のSNS(交流サイト)であるフェイスブックより1ケタ少なく、インスタグラムやTikTok(ティックトック)、スナップチャットなどにも大きく水をあけられている。
株価は何年も低調なままだ。技術アナリストのベネディクト・エバンス氏は、ツイッターは現代のクレイグズリスト(個人間の売買を仲介する老舗サイト)のような会社だと記している。
「ネットワーク効果にあぐらをかき、大したものを作っておらず、少しずつアンバンドリングされている」
だが、マスク氏はビジネスとしてのツイッターには関心がない。
「経済的なことはどうでもいい」
同氏は4月に開かれた講演会TEDカンファレンスでそう語った。
「これ以上ないほど信頼され、概ねインクルーシブ(包摂的)な開かれたプラットフォームがあることは、未来の文明にとって極めて重要だという強い直観があるだけだ」
マスク氏が、ツイッターをより「インクルーシブ」にすることに財産のかなりの部分を投じる気になったのは、ツイッターがコンテンツモデレーション(不適切な投稿の監視作業)指針を強化した後のことだ。