技術スタックや規制の縛り

 大きく取り上げられるのをマスク氏が嫌がっているように見えたことはない。たとえそうでも、コンテンツモデレーションをやめるのはマスク氏の予想以上に難しいかもしれない。

 ツイッターは同じ「技術スタック」に参加するほかの企業の協力に依存しており、それらの企業がスタックを離れてしまう恐れが出てくる。

 例えばモバイル機器で利用するツイッターのアプリは、アップルやグーグルのアプリストアで配布されているが、両社は昨年の連邦議会議事堂襲撃事件の後、パーラーのアプリを締め出した。

 ウエブにおける存在すら条件付きになっている。

 アマゾン・ドット・コムは、投稿に暴力を奨励するものがあり規程に違反したとの理由で、パーラーをウェブホスティングサービスから排除した。

 政府もオンライン上の言論についての法律を厳しくしている。

 ツイッターは2021年上半期、計4万3000件の投稿削除要請を現地の法律に基づいて処理した。2年前の2倍超にあたる数だ。

 欧州ではさらに厳しい内容の法案が作成されつつある。ツイッターがいとも簡単に1人の富豪の手に渡ることにより、米国でも規制について精力的な検討が促されるかもしれない。

あちらこちらに利益相反の芽

 マスク氏が自分の原理原則を貫けるか否かは、多くの条件に左右されるだろう。

 ハーバード大学のドゥーク氏は、コンテンツモデレーション指針の策定者が企業の成長も担当する場合、そのSNSは利益相反に直面すると指摘する。

 言論の自由に対するマスク氏のアプローチが、同氏のほかの利益によってぐらついてしまうことはないのだろうか。

 テスラは中国での事業拡大を望んでいるが、ツイッターは中国の国営メディアに要警戒のレッテルを貼っている。

「中国政府はあの街の広場への影響力を少し手に入れたのだろうか」

 アマゾンの創業者で米ワシントン・ポスト紙のオーナーでもあるジェフ・ベゾス氏はこうツイートした。

 そして少し間を置いて、「ツイッターへの検閲ではなく、テスラの中国事業の複雑さが増す」との見立てを披露した。

 投資家もこの見方に同意しているようだ。ツイッター買収のニュースが流れてから、テスラの株価は10%超下落している。

 マスク氏は、プラットフォームのオーナーとして公明正大に振る舞うと主張している。4月25日にツイッターの取締役会が買収提案を受諾した後には、次のようにツイートした。

「自分にとって最悪の批判者でさえツイッターに留まることを希望する。言論の自由とはそういうものだからだ」

 ユーザーの一部は違うことを考えた。ツイッターのトレンドトピックには、「トランプのツイッター」なる語句がその日のうちに登場している。