「帝国を目指すプーチンの野望を過小評価していた」
シュマトクさんの父バレリさんはソ連時代、ロケットサイエンティストとして潜水艦発射型ロケット兵器の開発・製造に携わっていた。ポーランド人の血が半分流れるアーシャさんはポーランドで親戚が亡くなった時も葬式に行けなかった。情報の国外流出を恐れてソ連共産党が国外への旅行の自由を禁止していたからだ。
ロシア軍の侵攻前、「プーチンはウクライナに侵略してくる」と心配するアーシャさんにシュマトクさんは「お母さん、それはナンセンスだ」と反論したという。「ロシアは原油・天然ガスの資源をたくさん持っているが、貧しい国だ。プーチンはマフィアのボスで、こうした資源を輸出して稼いだカネを盗み取って蓄財している」
「国民を欺き、国家資源を搾取して、プーチンとその取り巻きは大金持ちになった。他の国に手を出さない限り、プーチンが自分の国や国民から富をいくら搾り取ろうが誰も口を出さない。2014年のクリミア併合でプーチンは領土保全の国際原則を無視した。しかしマフィアの目的はカネだと私は高を括っていた。プーチンの帝国の野望を過小評価していた」
シュマトクさんは反省を込めてこう語る。
ウクライナ人口社会研究所と米ノースカロライナ大学の研究ではホロドモールで約390万人が死亡したとされる。1933年初めに5万4645人が裁判にかけられ、うち2000人が処刑された。ソ連は1932年にウクライナから427万トンの穀物を抜き取り、33年1月時点でソ連には1000万人以上を養える穀物が備蓄された。
アーシャさんの脳裏にはホロドモールなどソ連時代の悪夢が深く刻まれていた。だからこそシュマトクさんら若い世代と違って侵攻を正確に予測し得たのだった。ロシア軍の支配下にもかかわらずシェルターに残り、動物たちの世話を続けた理由についてアーシャさんはこう語っている。
「一秒たりともシェルターを離れると、動物たちに何が起こっているのか心配でたまらないのに、何も知ることができないという状況は私にとって最悪です。だから何があっても動物たちから離れないでおこう、一緒にいてあげようと思ったんです」
アーシャさんの瞳の奥に人間の優しさと暖かさが灯った。
(「ロシア兵に母親がレイプされ殺さる現場を目撃した少年、衝撃で毛髪が真っ白に」<https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70028>に続く)
・アーシャさんが運営するホストメリシェルター
http://www.gostomelshelter.com/war
・ブチャ人道復興財団
https://www.buchafoundation.org/
・アレクサンドル・シュマトクさんの連絡先
alex.shamtok@gmail.com