新型コロナウイルス感染症は、がん検診の減少、受診控え・手術控え、さらには予定手術の延期など通常診療にさまざまな影響を及ぼしている。このような中で予定手術を受けた作家の江波戸哲夫さんに讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が体験談を聞き、受診控えへの警鐘を鳴らす。連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第82回。

 病気を治すためとはいえ、手術を受ける患者さんはさまざまな不安や緊張を感じることと思います。その上、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以降は、病院内での感染リスクを恐れるあまり、受診控えが顕著に起こっています。

 一方で、コロナ対策に病床や医療従事者を割かなければならないため、感染極期には通常診療が制限され予定手術(緊急的に行なう緊急手術ではなく、あらかじめ予定・計画された手術)の延期も行われました(第34回参照)。

 実際にコロナ下で予定手術を受けた患者さんは、何を体験し、どのような感想を抱いたのでしょうか? 昨年(2021年)末、私が勤務する自治医科大学附属さいたま医療センターで心臓弁膜症の手術を受け、ICU(集中治療室)に入室された作家の江波戸哲夫さんにお話を伺うことができました。

江波戸 哲夫(えばと・てつお)氏
1946年東京都生まれ。1969年東京大学・経済学部卒業後、都市銀行、出版社勤務を経て作家に。代表作に『小説大蔵省』『小説盛田昭夫学校』『定年待合室』『集団左遷』(福山雅治主演でテレビドラマ化)などがある。
(写真:岡村啓嗣)

院内感染の心配は?

讃井 手術にいたる経緯からお教えください。

江波戸 6年前、別の病気で入院した時にいろいろな検査をしたところ、心臓弁膜症があることがわかりました。すぐに手術する必要はないということで薬で対応していたのですが、一昨年の冬に、「そろそろ手術したほうがいいですね」と担当医に言われました。その頃から、日常生活で息苦しさを感じる場面が出てきて、「これは手術しないとまずいな」と私自身も思うようになりました。家庭の事情があって日程調整は昨年9月にずれ込みましたが、11月末に入院して手術することが決まりました。

讃井 手術は初めてだったそうですが、不安ではありませんでしたか?