社長になって知ったシロアリ駆除業界のネガティブイメージ

 トラストは、もともとは山下氏の父親が創業した会社だ。しかし、山下氏は、会社を継ぐつもりは、まったくなかった。実際、山下氏は大学時代のアルバイトから始まり、下積み8年を経て10年間コンビニエンスストアのオーナー経営者だった。

 コンビニ経営を仕事に選んだ理由は、「虫を見るのも好きだが、人間観察も好き。コンビニなら朝から晩まで人間観察できる。コンビニほど人間模様が見えやすい場はない」から。山下氏はとにかく観察が好きなのだ。

 このコンビニでの経験が、後にトラストでの業務に生きることになる。

 転機は、父親が脳梗塞で倒れたことだ。好きだったコンビニ経営を辞めることには迷いはあったが、その2年後の2014年、38歳で山下氏はトラストを引き継いで社長になる。

 その社長就任直後が最も苦しかったと山下氏は語る。

 未練のあったコンビニを手放し、山下氏がトラストの社長を引き継いだ時には、同社には社長不在状態になってから2年が経っていた。この2年の間、既存顧客との関係が薄れ、新規顧客との接点も作れていなかった。山下氏の父親が30年、培ってきた会社としての信頼やブランドが毀損していた。

 さらに、社長になってわかったのは、この業界の悪しき慣習だった。例えば、「無料診断と称して宅内に上がり込み強引な営業をする」「床下の状態をひどく言って不安をあおる」「売り逃げする。施工後、シロアリ被害が再発しても無視する」などといった慣習である。

 こうした業界を変えようと客先を訪問しても、業界のイメージから問答無用で怒鳴られることが何度もあった。このように、山下氏のトラスト社長としての仕事は、業界を代表しての謝罪行脚から始まった。コンビニという異業種から来た山下氏には驚きだった。