デジタル化に着手する中小製造業が抑えたいポイントをシンクタンク研究員が解説(提供:tetola/イメージマート)デジタル化に着手する中小製造業が押さえたいポイントをシンクタンク研究員が解説(提供:tetola/イメージマート)

~ 中小企業の今とこれからを描く ~
 日本政策金融公庫総合研究所では、中小企業の今とこれからの姿をさまざまな角度から追うことで、社会の課題解決の手がかりを得ようとしています。最新の調査結果を、当研究所の研究員が交代で紹介していきます。今回は「中小製造業のデジタル化」がテーマの3回目。推進のポイントを考えます。

(藤田 一郎:日本政策金融公庫総合研究所 グループリーダー)

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 中小製造業のデジタル化は道半ばだ。だが、思い切って着手し、成果をあげてきた企業も存在する。このことは前回までの2本の記事で紹介してきた通りだ。

>>>#1 「回して遊ぶ「ネジチョコ」ヒットに見る、デジタル化で歯車が回った中小製造業」
>>>#2 「デジタル化のメリットは何か?事例で見る、カギは生まれる「ゆとり」の使い方」

 今回は、日本政策金融公庫総合研究所が調査した4社の取り組みを踏まえ、中小製造業がデジタル化を推進していくためのポイントを五つ挙げたい。

事例企業の概要(筆者作成/データは取材当時)
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ポイント①:ビジョンを示す

 ポイントの一つ目は、経営者がビジョンを示すことである。デジタル化は手段であって目的ではない。経営者はまずデジタル化によって何を成し遂げたいのか、自社をどのように変革していきたいのかを従業員に示す必要がある。これまでの経験や慣習にとらわれず、ゼロベースで将来を考えるようにしたい。

 気をつけたいのは、右へ倣え、流行に後れるな、と言わんばかりにむやみにデジタル化に走らないようにすることである。ビジネスの構造上、デジタル化による効率化の余地がほとんどない企業や、あえてデジタル化しないことで競争力や独自性が際立つ企業もあるはずだ。自社の将来像と照らし合わせて、デジタル化の必要性を吟味するようにしたい。

ポイント②:段階を踏む

 二つ目は、段階を踏むことである。決して成果を焦ってはいけない。実際、事例企業はデジタル化に取り組み始めてすぐに成果をあげたわけではない。高性能の工作機械を導入するのとは違い、期待される成果をあらかじめ数値化することはできない。デジタル化の推進に当たってはこの点を認識したうえで、腰を据えて取り組むようにしたい。

ポイント③:従来のやり方にこだわらない

 三つ目は、従来のやり方にこだわらないことである。今存続している中小製造業の多くは、新型コロナはもちろんのこと、地震や豪雨などの災害や、原材料価格の高騰といった数々の難局に直面し、地道な経営改善によってそれを乗り越えてきた。こうしたなかで培ってきた企業体質はいわば会社の財産である。しかし、これがデジタル化推進のブレーキになる可能性があることを認識しておきたい。