~ 中小企業の今とこれからを描く ~
日本政策金融公庫総合研究所では、中小企業の今とこれからの姿をさまざまな角度から追うことで、社会の課題解決の手がかりを得ようとしています。最新の調査結果を、当研究所の研究員が交代で紹介していきます。今回は、前回に引き続き、中小製造業のデジタル化をテーマに、成果や推進のポイントを考えます。
(藤田一郎:日本政策金融公庫総合研究所 グループリーダー)
>>>#1 「回して遊ぶ「ネジチョコ」ヒットに見る、デジタル化で歯車が回った中小製造業」から読む
生まれたゆとりをどう生かすか
デジタル化に取り組む中小製造業者に共通する成果として、仕事時間に「ゆとり」が生まれていることを前回指摘した。大切なのはこれをどう活用するかである。
ゆとりをうまく活用し、デジタル化のメリットを最大化したケースにはどんな事例があるのか。ゆとりの活用によってどんな成果がもたらされたのか。中小製造業4社のケースを見ていきたい。
ゆとりの使い方①:人手がいるところを手厚くする
中央工機(岐阜県関市)はクラウド型の生産管理システムの導入で、原材料の調達から生産ラインの稼働、納品までの一連の工程を管理するようになった。デジタル化によって間接部門を効率化できた結果、同社は生産部門に人員を手厚く配置している。
多品種少量生産の鍵を握るのは金型の段取り替えであるが、この作業では人間の力が頼りになる。従業員が一斉に段取り替えにかかることでスピードアップを図っている。多くの注文に応えられるようになった結果、顧客満足度が高まっている。
ゆとりの使い方②:仕事の負担を適切に配分
有本電器製作所(新潟県加茂市)では、デジタル化によって社内で仕事の進捗が可視化された結果、仕事の配分が適切になり、残業時間が約20%短くなった。特に高齢の従業員から、時間に余裕ができたと喜ばれている。デジタル化によって同社は従業員のワーク・ライフ・バランスの充実を実現している。年齢を重ねても働きやすい職場環境にもつながっている。
ゆとりの使い方③:次の商機をつかみにいく
デジタル化の推進でネジチョコの生産規模を日産最大3万個に増やしたオーエーセンター(北九州市)は近年、大企業からコラボ商品を受注することもある。単発の取引であるため商談のタイミングを逃さないことが重要になる。
営業担当者はデジタル化のおかげで工場の稼働状況や予定についてリアルタイムで情報を確認できるから、商談の場で具体的な納期を提案できる。デジタル化によるスピードアップを受注機会の拡大につなげている。