信頼回復につながったコンビニでの「お叱り」体験

 新社長として自社の経営改革と業界イメージの刷新に苦戦した山下氏は、専門書を読み、研究会に足を運ぶなどして糸口を探った。そして、山下氏は、防虫の専門家である奥村敏夫と出会う。奥村は、殺虫剤の設計まで担っている業界の大先輩である。

 奥村も無類の虫好きで、「同好の士」として意気投合した山下氏は、奥村からシロアリの習性などについて多くの知見を得る。奥村からの教えもあり、趣味としての「虫博士」が、シロアリの専門家に脱皮したのだ。

 そして、山下氏は専門知識を基に、顧客に根気強く説明した。時には、説明だけのために同じ顧客に3日続けて訪問することもあった。さらに、施工後の定期点検とメンテナンスのレベルアップを続け、売って終わりにするのではなく、責任を持って対応する姿勢を示した。

 こうした取り組みにより、山下氏は顧客との関係修復に成功し始める。

 顧客も、怒りたくて怒っているわけではない。以前、シロアリ被害を受けた実体験による不安が怒りに転じている。だとすれば、将来への不安が解消すれば怒りは収まる。専門知識に基づき、理路整然と、今後のシロアリ防除対策方針を説明する山下氏の話に、耳を傾ける顧客が増えていった。

 この時に役に立ったのが、コンビニオーナーとしての経験だ。山下氏はコンビニ時代、頻繁にトラブル対応を経験していた。

 山下氏の経営していたコンビニのスタッフは、主に学生アルバイトだった。学生アルバイトは卒業と同時に辞める。辞めると、新人を雇う。新人にはミスもある。ミスすると顧客とトラブルになる。コンビニ業務の複雑化もあり、顧客とのトラブルは避けられない。

 トラブルへの対応は正攻法しかない。誠心誠意、謝罪した上で、今後どうしていくのかをきちんと伝える。山下氏はそれを身をもって知っていた。

 この経験が、顧客が不安を持ちがちなシロアリ対策の業界で生きた。

社内の様子。現在、多店舗展開を視野に入れている

「点検に来てくれるけれど頼りないし、もともと被害があった箇所、本当に駆除できているの?」「点検って誰にでもできるようなことをやっているだけなんじゃないの?ぼったくり?」

 顧客から、歯に衣着せぬ苦情を日々浴びせられたが、顧客の叫びに真摯に対応していくことで、山下氏の中にシロアリ被害の解決方法と、顧客からの生の声に応えたわかりやすい説明の仕方の「データベース」ができあがっていった。このデータベースを新たな顧客向けのチラシに反映することで、業容拡大にもつながった。

「独自の技術開発」「専門知識」「顧客とのコミュニケーション」。この3つを生かし、自社だけでなく業界のイメージ向上にも尽力している。