文在寅大統領と金正淑夫人(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 あと1カ月ほどで文在寅(ムン・ジェイン)大統領が退任する。いま文氏が最も恐れているのは、退任後に自身や家族が検察当局から訴追され、刑に服するような事態になることに違いない。

 文政権は前任の朴槿恵(パク・クネ)前大統領、さらに2代前の李明博(イ・ミョンバク)元大統領という保守系政治家に対して執拗な攻撃を行った。その結果、朴氏も李氏も逮捕・収監された。朴槿恵氏は昨年末に赦免され、現在は自宅に戻っているが、李明博氏は現在も収監されたままだ。

 そして今年5月、文大統領に代わって保守系の最大野党「国民の力」所属の尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏が韓国の第20代大統領となる。自分が前任、前々任の大統領にしてきたようなことが、今度は自分に向けてなされるのではないかと考えない方がどうかしている。

人事権をフル活用してシンパを要職に配置

 もっとも文大統領は以前から、そうなった際の「政治報復」に備えてきた。政府要人等に関する検察の捜査権限を、新たに設けた高位公職者犯罪捜査処に移管し、その幹部に自身に近い人物を任命するなど、保身を図ってきたのだ。

 だが、文在寅政権委は追及されてもおかしくない疑惑がいくつもある。

 刑事事件に発展しかねない疑惑としては、文在寅氏の長年の知人が出馬した慶尚南道蔚山(ウルサン)市長選に大統領府が介入した事件、月城(ウォルソン)原発1号機の経済性を過小評価し早期閉鎖に持ち込むのに政権幹部が関与した事件、文在寅氏が退任後の住居購入にあたって土地の用途を変更し巨額の利益を得た事件などが取りざたされている。

 これに加え、筆者は産業通商資源部の局長が、文在寅政権発足直後の2017年9月に、韓国電力公社傘下の発電会社4社の社長に辞表提出を強要したという、いわゆる「産業通商資源部ブラックリスト事件」(以下、「産業部ブラックリスト事件」)に注目している。長らく文在寅政権が捜査に蓋をしてきた事件だが、ここにきて検察が本格的な捜査に乗り出しているのだ。