在任中は金正恩氏にいいようにあしらわれた文在寅大統領(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(金 興光:NK知識人連帯代表、脱北者)

 4月3日、北朝鮮の“暴言王女”こと金与正(キム・ヨジョン)氏が、韓国の徐旭(ソ・ウク)国防部長官を「狂っている。ゴミだ」と口汚い言葉で罵った。北朝鮮に対する先制攻撃に言及した徐旭国防部長官の発言内容がお気に召さなかったようだ。

 北朝鮮が韓国の国防部長官を名指しで攻撃したのは、今回で2回目だ。李明博政権や朴槿恵政権で国防部長官や大統領府国家安保室長を歴任した金寛鎮(キム・グァンジン)元長官は在任当時、北朝鮮に対して強硬な立場を取っていた。韓国の安全保障を確保するためだ。

 2013年当時、北朝鮮は金寛鎮氏の強硬な態度が目に余ったのか、軍隊の指揮権を持つ大統領ではなく、金寛鎮氏をしばしば非難した。北朝鮮軍は、金寛鎮氏の写真を標的に射撃訓練までしていたほどだ。

 金寛鎮氏が残した名言には以下のようなものがある。

「北朝鮮の挑発に対して、『対応射撃しますか?』などの報告は一切必要ない。指揮官に尋ねることなく、自動的に応射しろ。敵が降参するまで何十倍も報復し、懲らしめろ」
「敵の挑発に対しては挑発してきた者だけでなく、支援者を含めて焦土化しろ」
「北朝鮮が挑発したら、我々のミサイルで敵の息の根を止めろ」

 このような対北朝鮮についての強硬なメッセージは、北朝鮮が挑発するたびに叫ばれた。

 そして今回は、文在寅政権の徐旭国防部長官が北朝鮮の標的となった。金与正氏だけではなく、朝鮮労働党軍事秘書の朴正天(パク・チョンチョン)氏までが登場し、警鐘を鳴らした。「我が民族同士」や「統一のこだま」のような北朝鮮の海外宣伝媒体も、一時は徐旭長官への悪口だらけになった。

 実際のところ、北朝鮮への先制攻撃に言及した徐旭長官の発言は決して特別なことではない。

 北朝鮮が挑発してきた時、韓国の前国防長官はこの程度のメッセージをたびたび発信してきた。最近でも、尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領が何度も言及している。金寛鎮元長官の当時の発言と比較しても、それほど内容に差異はない。

 現に、徐旭国防部長官が4月2日の陸軍ミサイル戦略司令部改編式で語った言葉は、以下のようなものだ。

「我が軍は、射程、正確さ、威力が大幅に向上した、多種多量のミサイルを保有しており、北朝鮮のどんな標的も正確にかつ速やかに攻撃可能な能力を有している」
「今後も継続して、敵を圧倒できる、長距離、超精密、高威力の多様な弾道ミサイルを開発していくだろう」