(羽田 真代:在韓ビジネスライター)
韓国・政府公職者倫理委員会は3月31日に、「2022年3月退職公職者就職審査(計65件)」結果を公開した。この就職審査とは、退職前の5年間に所属していた部署および機関業務と、就業予定企業の間で密接な関連性がないことを確認するためのものだ。
公職倫理システムに掲載されている「22年3月退職公職者就職審査」を閲覧してみたところ、そこに記載されている就業先は新韓銀行、三星電子、道路交通公団、韓国放射線振興協会など有名企業・団体名が連なっている。大手法律事務所も多い。文政権下で若者の就職難が訴えられていたが、官僚の天下りがこれだけあれば国民はさぞかしご立腹のことだろう。
日本も官僚の天下りは長年問題視されているから、隣国のことを偉そうに指摘できたものではないが、文政権の身内贔屓は露骨だ。
今回の審査で韓国メディアが注目したのは、大統領府行政官がクーパン(韓国最大のオンライン小売業者)の専務職に就職したという点だった。大統領府と小売業者の仕事内容が結びつかないからだ。
韓国で「クーパン」と言えば知らない者はいない。日本で言うところのAmazonや楽天、ヤフーショッピングに当たる会社で、サービス内容もそれほど悪くない。
韓国の配送業者は商品の扱いが非常に雑で、梱包の箱が潰れているのは日常茶飯事だ。荷物の受け渡し方法も指定をろくに守らない。
かつて玄関先に荷物を置かれることに抵抗があった筆者は、荷物をマンションのコンシェルジュに預けるように指定していた時期があったが、何度指定しても玄関先に配送された。彼らは彼らの効率重視で配送するからだ。
その後、玄関前の置配を指定したところ、今度はコンシェルジュに預けるのだから困ったものだ。
そんな業者が多い中、クーパンは受取人不在の場合、配送時の写真を撮って客に送信してくれるから有難い。それに、生鮮食品はスーパーで買うよりも新鮮な方だ。大型スーパーで食料品を買うと、腐った野菜や果物が紛れていることがしょっちゅうあるが、クーパンの管理下で生鮮食品が腐っていたことは、少なくとも筆者の場合ない。
また、夜中のうちに配送してくれるサービスがあるなど、せっかちな韓国人にはとても評判がいい。頻度の高い人は毎週、毎日のようにクーパンを利用しているくらいだから、韓国人の生活に欠かせない会社だ。
前置きが少々長くなったが、このクーパンという会社、2015年に日本のソフトバンクグループが出資し、2018年にソフトバンクグループのビジョン・ファンドが投資したことでも知られている。
米ブルームバーグのデータでも、ソフトバンクグループはクーパンの筆頭株主と紹介されているから、クーパンは日系企業の息がかかった韓国企業と言える。
文大統領は就任直後から反日扇動を掲げ、日本製品の不買運動を煽ることで日系企業を目の敵にしてきたが、天下り先に日系企業の息がかかった先を避けることまで考えていなかったようだ。クーパンの筆頭株主が日系企業であることを知らないのかもしれない。文政権の不買運動とはこの程度だったのだろう。