アルバイト、パートタイム、派遣社員……。これまで非正規の仕事といえば、若者や女性が中心だった。しかし、近年、非正規労働の現場で、しばしば「おじさん」を見かける。しかも、いわゆるホワイトカラーの会社員だった人が、派遣やアルバイトをしているケースが目につく。
かつて企業や役所に君臨してきたおじさんたちが非正規で働くのは、新しい時代の幕開けなのか、それとも日本の労働市場の劣化なのか。逞しくもどこか悲壮感漂う、非正規労働のおじさんの姿をリポートする。
(若月 澪子:フリーライター)
寺岡雄二さんは大手放送会社に30年以上勤める57歳。穏やかで優しい雰囲気のおじさんだ。30~40代の頃はテレビドラマのプロデューサーをしていて、2時間ドラマや時代劇、特撮ものを制作していたという。
そんな寺岡さんは、現在、毎週土曜日に倉庫で日雇いアルバイトをしている。華やかな世界にいたはずのテレビプロデューサーが、なぜ倉庫でバイトしているのか。
「プロデューサーをやっていたのは過去の話です。今は社内の映像作品の整理部門にいますから、大した仕事はしていません」
整理部門にいるのは全員が50代だ。どんな仕事かといえば、過去の古い映像を最新の技術で修復する作品のリストなどを作成しているそうだ。修復作業は専門の技術者の担当で、寺岡さんたちがやるわけではない。それでも、50代の部長はリモートワークを嫌がるアナログ派のため、コロナ禍でも平日は毎日出勤している。
「リモートワークになってしまうと、私たちは本当にやることがないですから(笑)」
メディアの世界といえども、入れ替わりは激しい。一度現場を離れると、つぶしの利かない、何もできないおじさんになってしまうのだろう。
会社に顔を出すだけで、仕事らしい仕事がないまま給料だけをもらっている人を揶揄する「妖精さん」という言葉が一時話題になったが、寺岡さんも妖精の一人なのだろうか。
とはいえ、寺岡さんの年収は手取りで600万円程度。副業までする必要はなさそうだが、「なぜアルバイトをしているのか」と聞いたところ、納得の理由が返ってきた。