ビデオを通じてメッセージを発信するウクライナのゼレンスキー大統領(提供:Ukrainian Presidential Press Office/AP/アフロ)

(舛添 要一:国際政治学者)

 ウクライナでは、停戦交渉が続けられているが、その間も戦闘は続き、避難民の数も300万人を超えている。アメリカ、ヨーロッパ、日本などは、ロシアに対して経済制裁を強化しているが、プーチン大統領は戦争目的を遂げるまでは容易には妥協しないであろう。加盟国でないウクライナにNATOが軍事介入するわけにはいかず、武器援助までしかできない。

 しかし、アメリカは対戦車兵器「ジャヴェリン」や携帯式防空ミサイル「スティンガー」をウクライナに大量に供与。これがウクライナ軍の抵抗に役立っている。ロシア軍の侵攻スピードが遅れているのは、そのためだとも言われている。

停戦交渉の落とし所

 民間の施設も攻撃の対象となり、民間人にも大きな犠牲が出ている。一刻も早く停戦に漕ぎ着けることが最優先課題であるが、停戦交渉には一定の前進もあるという。双方の妥協が成立するとすれば、どのような内容が落とし所なのであろうか。

 ウクライナ側はロシア軍の即時撤退を要求し、ロシア側はウクライナの非軍事化、中立化、非ナチ化を求めている。プーチンは、ウクライナがNATOに加盟しないことを文書で制約すること、ウクライナにNATOの攻撃兵器を配備しないこと、ゼレンスキー政権が退陣することを、「特別軍事作戦」の目的としている。

 両者の主張は真っ向から対立しているが、考えられる譲歩としては、ウクライナは、「東部2州で紛争が続く限りはNATOに加盟しない」という内容ならば容認できるであろう。また、ミサイルなどの西側の兵器を配備しないことも約束できる。さらには、アメリカ、イギリス、トルコによる安全保障、国境の不可侵などを前提にして、ウクライナの「中立化」を前進させることは可能である。問題は、ロシアがこれを認めるか否かであり、NATOとどこが違うのかという反対論が展開されるだろう。

 ロシアによる中立化要求に対して、ウクライナは検討する姿勢を見せているが、スウェーデンやオーストリア型の中立化は受け入れないという。両国は、自国の軍隊は持つが、軍事同盟には加盟していない。スウェーデンは、第一次、第二次世界大戦で中立を貫き、今日に至っている。オーストリアは1938年にナチスドイツに併合されたが、戦後の1955年に独立し、憲法で永世中立をうたった。

 ウクライナがどのような「中立化」を模索しているのかは不明であるが、ロシアが受け入れる形での中立を提示できるか否かが問題である。