経団連襲撃事件とは、三島由紀夫を崇拝していた野村らが、「戦後体制の欺萬、腐敗に鉄槌を下すため」と、土光敏夫経団連会長をターゲットに経団連会館に乗り込み、職員を人質にとって会長室に籠城した事件だ。

 取材の席で野村は理路整然と自論を語った。話をしていて相手の言葉に引き込まれるという事があるが、野村はまさにそんな人物だった。「日本の良き伝統と文化を守る」と彼は熱弁した。

フィリピンの反政府ゲリラに誘拐された日本人カメラマンを救出

 それから3年後、取材でフィリピンへ向かう機上で偶然再会した。彼はフィリピンのホロ島でモロ民族解放戦線に誘拐されたカメラマン石川重弘氏の救出交渉に向かっていた。

 彼は相変わらず精力的だった。

「石川さんが無名のカメラマンだとしても、政府の知らん顔は許せん。政府が助けられないのなら俺らが助けるまでさ。もうだいたいの交渉は詰まっているんだ。もうすぐ出すよ」

 と、彼は独特の笑顔でニヤリと笑った。

 その後、救出された石川氏の会見には右翼のドンである笹川良一が出席し、野村はあくまでも黒子に徹した。彼らしいやり方だった。