(山中 俊之:著述家/芸術文化観光専門職大学教授)
「日本も外交ボイコットすべきだ」
これは、高市早苗氏ら自民党保守派議員の言葉ではない。企業での経営幹部向け研修でのビジネスリーダーの発言である。
私は世界情勢と企業経営について数多くの研修を担当させていただいている。その中で、北京冬季五輪(以下、北京五輪)の外交ボイコットはよく出るテーマとなった。
確かに、100万人を超えるウイグル人の強制収容や人口を増やさないための不妊治療は常軌を逸した人権蹂躙であると言える。
SDGs(国連の持続可能な開発目標)への配慮が経営上不可欠なビジネスパーソンにとって、ウイグル問題に対して融和的な態度は禁物だ。自社製品の世界的な不買運動につながる可能性もある。日本政府に対して厳しい対応を求めようとすることは理解できる。
しかし、外交ボイコットがウイグル問題の改善につながるのだろうか。筆者は疑問だ。権威主義的傾向が強い中国が諸外国の外交ボイコットに対して、ウイグル問題を反省して対応策を講じるとはとても思えない。
そもそも、外交ボイコットとは何だろうか。明確な定義はなく、主として今回の北京五輪への対応としてできてきた概念だ。
外交ボイコットとは、かつてのモスクワ五輪のように五輪自体への選手派遣をボイコットすることではなく、政府代表者を派遣しないということを意味している。
五輪開催時には、世界各国の首脳が開会式などに来訪する。主催国にとっては、最高に晴れやかな舞台である。主催国の首脳にとっては国威掲揚の時であり、国民にも自らの力を見せつける最高レベルに重要なイベントである。それがボイコットされれば、習近平指導部にとっては実に痛手である。
国益に沿う外交を実現するための手段として、五輪のボイコットを使う。今回の場合、ウイグル問題等をはじめとした権威主義的な中国の政治を批判することで、中国の国際的な地位を貶めることが目的であろう。中国と経済的・政治的な覇権を競っている米国にとっては、中国の国際的な地位、評判が落ちることは国益に合致するのだ。