糖尿病患者の「生きづらさ」の元になる言葉が生む偏見
――社会的スティグマは新型コロナウイルス感染症においても話題になりました*2。糖尿病患者さんの生きづらさとは、どのようなものでしょうか。
杉本 社会的スティグマの受け止め方は人によりさまざまですが、健診で糖尿病を指摘されてもすぐに受診しない人や、医師から投薬が必要と言われても辞退する人の中には糖尿病に対するステレオタイプを受け入れられない人たちがかなり含まれていると、私はみています。そして、あまり知られていないことですが、医師から糖尿病と診断された、インスリン注射が必要と言われた患者さんの中には、社会から自分は「身体的に不完全で不健康である」とみなされ、保険や結婚、就職、出世などさまざまな面で大きな差別を受けることになるのではないかと不安に駆られる人がいます。私は、こうした社会的スティグマが、患者さんがインスリン注射の提案を辞退するひとつの要因となっていると考えています。
「糖尿病は生活習慣が悪い人間がなる病気だ、厄介な病気だ」とみなす社会的スティグマによって、健康診断後の受診勧奨を無視したり、服薬を辞退したり、あるいは血糖値が非常に高くてインスリン自己注射が必要な状態であるにもかかわらず、それを拒否する患者さんたちのことを「病識がない=病気を理解できない愚かな人」のように考える医療従事者がいるのも事実です。しかし、医療従事者が社会的スティグマに苦しむ当事者の気持ちを理解し、受け止めていくことがとても重要だと考えています。医療従事者の社会的スティグマに対する理解を推進すると同時に、「糖尿病になるのは生活習慣が悪い、自己責任だ」という社会に蔓延する誤解を解くことも必要だと思っていました。
そんな折、生きづらさを訴える若年発症2型糖尿病の青年から、同じように感じている患者と体験を共有し合う場をつくりたいという提案を受けました。そこで同じ想いを抱くもう1人の若年発症2型当事者と共に、患者さんたちが経験を語り、共有する場を提供したり、社会に正しい知識を発信していこうとする活動を始めたのです。3人で会の名称を話し合う中で、糖尿病患者にこうした生きづらさを与えている最上流にあるのが「生活習慣病」という呼称ではないか、それなら会の名称を「生活習慣病を死語にする会」にしようと決まったのです。
*2 2020年2月に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する社会的スティグマの防止と対応のガイド」国際赤十字連盟、UNICEF、WHO合同作成
https://www.unicef.or.jp/jcu-cms/media-contents/2020/04/Social-stigma-associated-with-the-coronavirus-disease-2019_COVID-19_JP.pdf