「生活習慣病」がバッシングにお墨付きを与える

――自民党副総裁の麻生太郎氏は、財務大臣時代に「食いたいだけ食って、飲みたいだけ飲んで、糖尿病になって病院に入っているやつの医療費はおれたちが払っている。公平ではない、無性に腹が立つ」と発言しましたね*3

杉本 実際には、日本の糖尿病患者を対象とした研究でカロリー摂取量とBMIには相関がみられないと報告されていますし*4、肥満に関する最新の科学的エビデンスにおいても、生物学的、遺伝的、環境的因子が肥満に強く影響していることを示しています*5。糖尿病をはじめ、生活習慣病と括られるさまざまな病気や症状を有する人々は、決して身体的に不完全で不健康な落伍者でも怠惰な人間でもないのに、この呼称がバッシングや差別をする加害者にお墨付きを与えているのです。

*3 https://mainichi.jp/articles/20181111/ddm/041/040/068000c

*4 Diabetes Res Clin Pract 2007;77 Supple1,S23

*5 NATURE MEDICINE VOL.26 APRIL 2020 485–497  www.nature.com/naturemedicine(「肥満のスティグマを終わらせるための共同国際合意声明」が発表された論文)

――BMI値的には肥満の人でも健康に問題ない人はいますし、ルッキズムにもつながりますね。「デブ」と言うと差別的な悪口ですが、「生活習慣病になるよ」はOKという印象があります。

杉本 2019年10月に日本糖尿病学会・日本糖尿病協会がアドボカシー委員会を立ち上げ、糖尿病に対するスティグマの弊害と患者さんが受ける不利益について、社会の意識や仕組みを変革しようと宣言しました*6。残念ながら、医療従事者の中にも偏見的な意識を持つ人はまだいらっしゃいます。世の中には「太っていたらダメ、糖尿病になったら終わりだ」というような空気が存在していて、患者さんはいつもそうした無言の非難に晒されていることを医療従事者が配慮できるようになったら医師-患者関係は大きく変わると思います。患者さんの苦痛は減り、幸福感の増加にも繋がるでしょう。そして、おそらく血糖管理や体重管理などのアウトカムの改善にも繋がると思うのですね。

 生活習慣を切り口にして「良い/悪い」と言うこと自体が非常にジャッジメンタルです。運動不足やカロリー摂取の過剰・不足はファクトであって、価値付けではありません。人それぞれに必要なカロリーも運動量も違います。数値的にはカロリーオーバーでも太らない人もいるし、逆もある。統計的にみれば普遍的な真実ではないはずなのに、総じて病気の原因になると一般化することが問題なのです。「生活習慣を改善する」は、科学で人の生き様を数値化して守らせるという個体差を認めないやり方で、医師としても実行可能な治療法とは思えません。ブリストル大学のEdwin Gale教授は、こう教えてくれました。

「“One size fits all(すべてに当てはまる)”勧告は集団に対しては適応しても良い。しかし、診察に訪れる患者はいずれもユニークな存在であることを忘れてはならない」

 これは糖尿病診療を考える時に、忘れてはならない格言だと思っています。

*6 「日本糖尿病学会・日本糖尿病協会 アドボカシー委員会設立 ~糖尿病であることを隠さずにいられる社会づくりを目指して~」https://www.nittokyo.or.jp/uploads/files/PR54_advocacy.pdf