養老 私が若かった頃が全盛でしたね。
斎藤 ソ連崩壊以降、マルクス経済学は完全に下火になりました。ただ、資本主義が勝利して世界が良くなったか、暮らしやすくなったかというと、けっしてそんなことはないんですよね。コロナもそうですけど気候変動とか格差とか、今、資本主義の矛盾がいろいろな形で噴き出して、人間も自然も脅かされている。このまま行くとやばいんじゃないの、という危機感が世の中に蔓延しています。
養老 そうですね。そういう背景もあって、この本は読まれているんでしょうね。自分たちがこんな生活を続けていていいのかという感覚はみんな持っていますよね。いつまでも経済が右肩上がりで成長するはずがないだろうと。じゃあ、本当はどうすればいいのか。それを考えないでだらだらきてしまって、ここにきてコロナ禍になって、さてどうするか、ひょっとして土台から間違えていたんじゃないの、根本から考えなきゃいけないんじゃないの、という雰囲気になってきたところに、この本が出た。
斎藤 はい、経済や社会の土台から考え直さなければならない時期に来ています。普通に考えれば、有限な地球上で毎年3%もの経済成長がずっと続くわけがありません。「経済成長は続くのだ」と思い込むのは、「成長教」とでもいうべき宗教ですね。経済成長を続けようと思えば、地球環境に大きな打撃を与えることになりますが、気候変動で大きな災害が次々、起こっているこの状態でも、まだ経済成長しようとしている。人々が幸せになることよりも、経済を成長させること自体が目的になってしまっているんです。この「成長教」から脱しないことには、もうどうにもならないと考えています。
すでに日本は「脱成長」?
養老 この本を読んで気になったのは、今の日本は実質的には、すでに「脱成長」の状態ですよね。日本経済はGDP成長率が停滞してここのところずっと低成長を続けています。安倍さんが首相になってアベノミクスを始めましたけれども、やはり2%のインフレ目標は実現できなかった。