お金の特徴を考えると、お金儲けすることが難しい社会にしたらいいんじゃないかと最近よく言っているんです。たとえば、富裕層の所得税を9割ぐらいにしてみてはどうか。今、日本で10億円稼いだら半分くらい税金を引かれるわけですけど、9億円を持っていかれるような社会にする。そして、その9億円を福祉とか子育て支援とか、本当に持続可能な社会をつくるために使うわけです。けれども今の日本は、「俺の金なんだから俺の自由にさせろ」という社会なんですよね。「コモン(共有財)」を分かち合う発想が許されない。

養老 確かに昔の日本には「コモン」がありましたね。典型的なのは農業です。たとえば山間部で田んぼを1人で作ろうと思ってもそうはいかない、水は上から引かなきゃいけませんから。今でも、下の田んぼが影響を受けますから、お米作りの農家は、勝手に農薬を使えないですよね。日本人の「みんなで一緒に」というメンタリティは、そういうところからきていると思います。

斎藤 そうやってコモンを通じて築かれていたコミュニティーが、今はどんどん解体されています。分かち合うことをせず、お金への欲望を抑えきれない。その結果、危機を前にして脆弱な個人主義しか残らなくなってしまっている。ゆがんだ資本主義の弊害が露わになっているなという気がします。

養老 「知足」という言葉がありますね、「足るを知る」です。日本では、きわめて封建的だとしてつぶされてきた言葉です。でも、今こういう世の中になってみると、いいかげんに足るを知ったらどうだろうかと思います。だから僕はいつも「猫を見ろ」と言っているんです。猫は自分の居心地のいいところに行って昼寝しています。それで満足してるくらいでいいように思うんです。

斎藤 みんな、いつまでたっても足るを知らないですからね。無限の経済成長、無限の資本の増殖を追い求める資本主義の宿命です。一方で、成長のない産業は非効率的だとみなされて改革を迫られる。医療も教育もそうですよね。もっと効率をあげろ、毎年3%業績を向上しろ、何か新しい手法を考えろと。そんなの無理なんですよ。効率や成長だけを求めると、クリエイティビティや大胆さが失われてむしろ不効率になっていく可能性もあります。

養老 人生、一番効率的に生きるんだったら、生まれたらすぐお墓に行けばいいんですよ。

斎藤 確かにそうですね(笑)。

養老 要するに人生そのものが寄り道、でしょう。寄り道なんだから、その瞬間を大事にすべきで、効率的にしても仕方がないということです。