欧州のオープンスカイズ条約が曲がり角を迎えているがその功績は大きい

 オープンスカイズ条約(Treaty On Open Skies)は、非武装の航空機により相互の領域内の軍事活動、施設を監視し合い、軍備および軍事行動の透明性を高めることを目的とする条約であり、「領空開放条約」とも呼ばれる。

 冷戦終結最中の1990年2月、カナダのオタワで北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構 (WTO)の加盟国の外相が集まり、交渉を開始した。

 そして、1992年3月 、NATO加盟国(16か国)、旧WTO加盟国(6か国、除く東ドイツ)並びにソ連崩壊後独立したベラルーシおよびウクライナの合計24か国が同条約に調印した。

 ちなみに、WTOは、1991年12月8日のソ連の解体を受け、同日に正式に解散し、ドイツは、1990年10月3日に再統一していた。

 現在、オープンスカイズ条約の締約国は、米ロを含めて35か国である。

 さて、2021年6月7日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、オープンスカイズ条約からの離脱法案に署名した。

 これで同法は成立し、寄託国(カナダまたはハンガリー)のいずれかの国への離脱通知および他のすべての締約国への離脱通知から6か月後にロシアは正式離脱する。

 今回のロシアの行動は、2020年11月に米国が同条約を離脱したことへの対抗措置であると見られている。

 米国は、2020年5月22日にオープンスカイズ条約からの撤退を発表した。

 ドナルド・トランプ政権(当時)は、ロシアがバルト海沿岸の軍事拠点やジョージアの国境周辺で査察機の飛行を制限するなど、条約違反を繰り返しているとして、離脱を表明した。

 また、トランプ大統領は、条約はもはや米国の国家安全保障上の利益に役立たないと主張した。

 だが、欧州諸国などは「条約は有用であり機能している」として米国の離脱に強い懸念を示した。

 ジョー・バイデン大統領は、就任直後に米露の新戦略兵器削減条約(新START)を5年間延長し、オープンスカイズ条約に関しても復帰の是非を検討するとしていたことから、米国のオープンスカイズ条約への復帰も予想されていた。

 しかし、バイデン政権は、2021年5月27日にロシアに対して、米国が条約に復帰しないことを通知した。

 これに先立ち、2021年4月、バイデン政権は、米国の同盟国に対して、ロシアがオープンスカイズ条約に違反し続けた場合、条約への復帰は「ロシアに誤ったメッセージを送り、より広範な軍備管理課題に対する我々の立場を損なう」可能性を懸念していると語った(出典:米議会調査局『オープンスカイズ条約:背景と課題』2021年6月7日)。

 ちなみに、米空軍は2機のオープンスカイズ航空機(OC-135B)を5月と6月にそれぞれ退役させた。

 ロシアは、米国の離脱に対抗して、2021年1月15日に撤退のための国内手続きを開始した。

 ロシアの国会は2021年5月にロシアの同条約からの撤退を承認する法律を承認し、連邦評議会は6月初めに承認した。

 そして、米国がオープンスカイズ条約へ復帰しないとの通知を受けて、上述したようにプーチン大統領は2021年6月7日に同法律に署名したのである。

 さて、米ロが離脱した後、同条約は将来も存続し続けるのであろうか、あるいは消滅するのであろうか。

 本稿は、オープンスカイズ条約の意義や将来を考察しようとするものである。

 以下、初めに、同条約の交渉経緯について述べ、次に.ロシアの条約違反について述べ、次に、同条約の意義について述べ、最後に同条約の将来について述べる。