現在、世界全体の新型コロナウイルス感染者の数は減少傾向にあるが、ブラジルなど76カ国の感染者数は、依然として増加している。
また、3つの変異ウイルスの感染が世界で拡大している。いまだ、収束に向かうかどうかは見通せない。
新型コロナウイルス感染症収束の切り札として期待されているのがワクチン接種である。主要国がワクチン開発でしのぎを削ってきた。
3月末現在、実用化された新型コロナウイルスワクチンは12種類である。一方、日本でも数種類の新型コロナワクチンの開発が進められているが、現在までに日本で使用承認を得ているワクチンは皆無である。
なぜ、日本はワクチン開発で出遅れたのか。
一言で言えば、政府の本気度の低さである。日本は初めから外国のワクチン頼りであった。
他方、諸外国は国を挙げて、官民協力して必死に開発に努力したのである。当然、そこに膨大な資金と人材を投入している。
さて、ワクチン開発であるが、ワクチンは、国民を感染症およびそれに伴う疾病から防御するため、必要に応じて即座に利用できる体制が整備できていなければならない。
危機管理の観点などから、戦略的に必要性が高い医薬品である。つまり戦略的物資である。
また、ワクチンは一般に生産コストなどの負担割合が高く、また高度な生産施設を要することから、採算性を考慮すれば、一般の企業が投資に消極的になる分野である。
つまりワクチンの開発には巨額の資金が必要で投資リスクが大きく、参入企業が少ない。従って、国が全面的にバックアップしなければワクチン開発の成功は期待できない。
日本のワクチン開発資金について言えば、政府は令和2年度の3次にわたる補正予算にコロナワクチン開発・生産支援を盛り込んだ。
第1次補正が100億円余り、第2次は国内外で開発されたコロナワクチンの国内生産用の施設、設備に約1400億円、第3次が国内開発にかかる約1200億円である。合わせても2700億円である。
単純比較はできないものの、米国が2020年5月に打ち出したワクチン開発計画「オペレーション・ワープ・スピード(Operation Warp Speed:OWS)」の予算は1兆円規模である。欧州や中国も同程度を確保したとされる。
日本のワクチン開発資金は米国などの10分の1である。国民に一律現金10万円が給付された特別定額給付金の予算総額は12兆8803億円である。
筆者は、この特別定額給付金の予算が国民の命を救うウイルス開発に使われるならば受給を辞退したであろう。
本稿の目的は、諸外国が短期間のワクチン開発に成功し、日本がワクチン開発に出遅れた理由を解明することである。
初めに、ワクチンの開発プロセスについて述べ、次に中国および米国の開発事例とその特徴について述べ、最後に日本がワクチン開発に出遅れた理由を述べる。