4.日本がワクチン開発で出遅れた理由
(1)政府にはワクチンを何が何でも国産するという強い意志がなかった。
前述したが、政府は当初から海外ワクチン頼みであった。
新型コロナウイルスの感染が国内で初めて確認されて8カ月たち第2波のピークが過ぎた頃から急に、ワクチンに注目が集まり始めた。
8月20日付の日本経済新聞は、「政府は新型コロナウイルスのワクチンを使って健康被害が生じた場合、製薬会社の代わりに賠償する方針だ。ワクチンは各国間の獲得競争が激化しているため、海外メーカーが日本に供給しやすくする。次の国会に新法を提出して早期成立を目指す」と報じた。
そして、9月8日、政府は、新型コロナウイルス感染症のワクチン確保のために今年度予算の予備費6714億円を使うことを閣議決定した。
以上のように政府は初めからワクチンを海外から輸入することを前提とした措置を講じていたのである。
(2)ワクチン産業基盤の弱体化
かつて日本はワクチン開発の最前線に立っていた。
「日本近代医学の父」とたたえられる北里柴三郎は、1889年に世界で初めてとなる破傷風菌の培養に成功し、血清療法を確立。この研究からさまざまなワクチン開発につながった。
現在、欧米では巨大製薬企業がワクチン開発をリードしているが、日本では、中小企業や大学、研究所ばかりで、大手の製薬企業はあまり積極的ではない。
日本でワクチン産業が落ち込んだ背景には、1970年代からのいわゆる「予防接種禍」がある。
このため、国、国民、メーカーなどが予防接種そのものについて消極的になり、国内の開発・製造力が、極めて限定的になった。
現在、新型コロナウイルスワクチン開発を目指している日本国内のメーカーは、バイオベンチャー企業アンジェス、製薬大手の塩野義製薬、ワクチンメーカーの第一三共、バイオベンチャー企業IDファーマである。
現在、実用化の目標時期を示しているのはKMバイオロジクスの「2023年度中」だけで、その他は未定である。純国産ワクチンの実用化には時間がかかりそうである。
政府は、海外ワクチンの国内企業の受託生産によるワクチンの長期安定調達を目指す考えである。
バイオ企業JCRファーマなどでは英アストラゼネカ製ワクチンの受託生産に向けた準備が進んでいる。
海外ワクチンの国内企業の受託生産は、弱体化した国内のワクチン開発・生産力向上につながることが期待されている。