アラビア海に展開する米空母ドワイト・アイゼンハワーから発艦準備する2機の「F/A-18F」戦闘機(4月29日撮影、米海軍のサイトより)

 4月12日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、ロイド・オースティン米国防長官との会談後、記者団を前に「イランは核兵器獲得を諦めず、イスラエルの壊滅を求めている。イスラエルはイランが核の能力を獲得するのを許さない」と強調した。

 イラン核合意が崩壊する可能性が高まる中、イスラエルのイランの核施設への軍事攻撃の可能性が高まっている。

 筆者は、イスラエルがイラン核施設攻撃に踏み切る「レッドライン」は既に越えていると見ている。

 なぜなら、イラクのオシラク原子炉への軍事攻撃の時は、原子力発電所の建設完成が近づいた時点でイスラエルは攻撃に踏み切っている。すなわち、いつ軍事攻撃が起きてもおかしくない情勢にある。

 ロイター通信によると、国際原子力機関(IAEA)は4月17 日、イランが宣言通り、濃縮度60%の高濃縮ウラン製造を開始したことを確認したことを明らかにした。

 ウラン濃縮活動は原子炉に装填する核燃料製造に必要な過程であると同時に、核兵器製造に転用可能な技術である。

 平和利用の原発では核分裂をするウラン235(天然ウランには 0.7%含有)を約5%まで濃縮し核燃料棒を製造する。

 核兵器に使用する場合には濃縮度を 90%以上まで高める必要がある。濃縮度 20%以上を高濃縮ウランと呼び、理論上は核兵器として使用可能とされるが、一般的には 90%以上まで濃縮する。

 このため、90%以上の濃縮度は、兵器級(Weapons-grade)とも呼ばれる。

 イランは、2002年に核開発が発覚して以降、ウラン最大濃縮度を、20%にとどめていた。兵器級の90%ウランに近づけば、イランの核武装を警戒するイスラエルの軍事行動を招きかねない懸念があったためである。

 ちなみに、2015年にイランと、米・英・仏・独・ロ・中の主要6か国との間で結ばれた核合意では、イランでのウランの濃縮率を3.67%と定めている。

 イスラエルは、敵対するイランが核能力を手に入れることを決して許さないであろう。

 なぜなら、核保有国となったイランとイスラエルとの間で核戦争が起きた場合、日本の四国と同じくらいの国土面積に東京都よりもやや少ない900万人が住んでいるイスラエルは壊滅的な被害を受けるからである。

 すなわち、イランの核武装は、イスラエルにとって国の存立を脅かす脅威なのである。

 また、イスラエルのイラン核施設への軍事攻撃の可能性に現実味を与えているのが、過去のイスラエルによるイラクおよびシリアの核施設に対する軍事攻撃である。

 以下、初めにイスラエルとイランとの歴史的な敵対関係について述べ、次にイスラエルのイラクおよびシリアの核施設への軍事攻撃等の事例について述べ、最後に、筆者が想定するイスラエルの軍事行動の態様について述べる。