優先順位を整理するのが政治
こういう日米の政治力の差を見せつけられて感じるのは、「政治で大事なのは経営能力だ」ということです。私の感覚だと、デジタル庁の設置は大事なので力強くすすめなくてはならないと思う一方、こども庁の設置は今やらなくてもいい仕事に思えます。このように、何を優先して取りかかるかという判断が経営能力の大きな部分になります。
私が経産省を退職し、「青山社中」という会社を立ち上げる前のことですが、実は複数の政党から政治の世界に誘われたことがあります。結論から言えば私はその誘いを断ったわけですが、お断りした理由の一つは、「政治というのは経営能力が大事な世界なのに、自分は役人しかやっていなかった。経営を知らないのに政治家になっても上手くいかないだろう」と感じていたからです。
その当時は民主党政権でした。当時の民主党の議員一人ひとりを見ると、政策面では非常に優秀な人が揃っていました。特に、私に近い年代で霞が関を去り政治家になった人たちは、極めて優秀な人が多いように見えました。
多くの人が指摘していることですが、民主党が政権を取る前に役所を辞めて民主党から政治家になった人と、その後民主党政権がボロボロになって以降、役所を辞めて自民党から政治家になった人を比較すると、実は前者の方の人には、後者よりも、一般論では役所内部で評価が高かった人、出世しそうだった人が多いのです。ハッキリ言えば、役所でエース級だった人が政治家に転じて、民主党政権で要職につき、仕事をしていた。彼らはみな議論でも非常に強いし、ロジカルだし、政策通で頭もいい。しかし、経営能力はあまりなかったように思います。
経営で必要なのは、マネジメント力とリーダーシップです。マネジメント力は、みんなの意見に耳を傾け、組織を潤滑に回していく能力。リーダーシップは、場合によってはみんなの意見を聞かず、大事なところで強い指導力を発揮できる力です。両者のバランスが大事になります。
しかし民主党政権時の議員は、「俺が俺が」の人が多い印象でした。当時、ある官僚が言っていました。「俺たち役所の人間は『役所って縦割りだ』と批判されるけど、民主党っていうのは『俺割り』だよね」。それくらい自己主張が強い人たちの集まりで、会議をしていてもとてもまとまる気配はありませんでした。みんな議論はうまいし、それぞれの主張は「ごもっとも」というものなのですが、「じゃあどうする」と結論を決める段になっても、誰も譲ろうとしないので何も決まらない。そこに大きな欠陥があったと思います。
政治家個々人の知識や能力も必要ですが、それ以上に全体をまとめる経営力が政治には大事です。「正義の反対は悪ではなくて、別の正義だ」とよく言われますが、こちらの正義があちらの正義とぶつかって、お互いに譲らない間に、時間はどんどん過ぎてしまいます。日本の政治にはこの優先順位のつけ方と決断力が足りないように思います。こども庁やオリンピックを巡る議論などを見ていて、そこを痛感しているのですが、今の日本の政治に経営能力を求めるということは、それほど無理なことなのでしょうか。
<お知らせ>
青山社中株式会社は「青山社中フォーラムvol.54」を、2021年5月27日(木)に開催(19:30~、オンライン)します。今回は、デジタル庁・日本のDX化の「始動者」でもある平井卓也デジタル改革担当大臣をお招きします。ご関心のある方は下記URLをご参照ください。
https://aoyamashachuforum5420210527.peatix.com/