1つ目のシステムの統一ですが、これは歴史的に各省庁、各事業でバラバラにシステムが開発されてきたため、行政全体としてのスムーズな連携が難しくなっている現状を打破するために、データの相互互換性を確保しようという取り組みです。これが実現できれば、行政事務は相当スムーズになります。

 2つ目のマイナンバーとの紐づけは、例えば保険証と一体化する試みなどです。実現できれば、行政サービスの提供がいまよりずっと確実でスピーディになります。昨年国民一人ひとりに特別定額給付金が支給されたときに、さまざまな手続きのミスや遅れが指摘されましたが、マイナンバーと紐づけされれば、こうした混乱はかなり抑えられるようになります。

 3つ目の「広い意味でのデジタル化」とは、「ハンコ廃止」というレベルの話から、AIを駆使したオンライン診療といった高度のものまでを含め、国民の生活の中で、単なるデジタイゼーションではなく、デジタライゼーションと呼ばれるような、デジタル化によってビジネスや行政の進め方そのものを変えていくような取り組みです。

 こうしたデジタル改革関連6法が描いた世界を実現する上で司令塔になるのが「デジタル庁」です。この関連6法の中でも、「デジタル庁設置法」が1つの核になっています。日本のデジタル改革が進むか否かは、このデジタル庁が成功するかどうかにかかっているとも言えます。

命がかかった戦時下でも組織は「縦割り意識」を容易には取り除けない

 私が見るところ、このデジタル庁は講学上の「政策統合機関」と呼ぶべき組織です。各省に散らばって、縄張り化しつつ、時に干渉しあっている政策を一カ所に束ね、効率的に力強く推進していく。そういう組織になることが期待されています。

 専門家集団というのは、組織が分かれていると、知らず知らずのうちに縦割りになってしまうものです。先の大戦の時には海軍と陸軍の縦割りも酷いものでしたが、命がかかっている戦争の時すらそうですから、いわんや平時をや、です。例えば「台湾沖航空戦」という有名な戦闘がありますが、アメリカ艦隊の侵攻を迎え撃とうとしていた大日本帝国海軍でしたが、実は思うような戦果を上げられませんでした。ところが現場から上がってくる報告が誇張され、最終的に大本営には大戦果を上げたような報告が寄せられてしまったのです。この誇張について海軍は気づいたのですが陸軍はなかなか伝えられませんでした。背景には、海軍の陸軍に対する対抗意識があったとも言われています。

 この誤った情報により、陸軍はルソン島で米軍を迎撃するはずだった戦略を、レイテ島の決戦に転換。兵士をレイテ島に集結させようとしますが、そこに海軍が壊滅させたはずの米艦隊の機動部隊から空襲を受け、甚大な被害を受けることになったのです。命をかけて同じ敵に立ち向かうもの同士であっても、「縦割り意識」を取り払うのは容易なことではないのです。

1944年10月、レイテ沖海戦で最後の戦いを挑む空母「瑞鳳」。写真は米空母「エンタープライズ」の雷撃機が低空で撮影したもの。瑞鳳はこの後、まもなく沈没した。「縦割り」の弊害から生じたともいえる台湾沖航空戦の「戦果誤認」が日本に大打撃を与えた(写真:近現代PL/アフロ)