こども庁設置という「正義」、この非常時に振りかざすべきものか

 現在、こども庁は来年度に作るとされています。新しい組織をつくるというのは役人にとっては特に準備が大変です。膨大な作業が必要になります。今はそういうことが必要な時期なのでしょうか。

 今は行政組織をいじることよりも、厚労省の役人や文科省の役人をまずは集中的にコロナ対策に振り向けさせるべきではないでしょうか。また役所の組織いじりをするよりも、コロナ下で特に困っている子どもたちに、しっかり寄り添う人材を集めることの方が大切だと思います。こども庁をつくっても、子どもに寄り添う人がいないと意味がありません。

 現在考えられている「こども庁」は、新たな機能を加えるということはほとんどなさそうです。それよりも、厚労省とか文科省とかにバラバラとある組織や管轄を統合して効率を上げたり強化したりすることが目的になっているように思います。それは、平時なら積極的にやるべきことだと思いますが、非常時であれば違う対応が求められると思うのです。現下の緊急事態ではすでにある組織や機能にヒトとカネを振り向けて、どんどん施策を実施すべきです。

 さらに役人の世界では、これから作るこども庁をどの役所の下に置くかですでに鞘当てが始まっているようです。文科省は「教育に関わることなので文科省の外局にせよ」と主張し、その動きに反対する勢力は「多くの省庁にまたがる事務を扱うので、内閣府の下に設けるべきだ」と言っていると聞きます。こうなると、役人はそれぞれの主張を補強するようなロジックを組み立て、資料をつくったりせざるを得ません。ここに大きなエネルギーが割かれることになります。これはいま必要な仕事ではありません。ただでさえコロナ下で厚労省の役人などは疲弊しきっています。辞職者も急増している霞が関への負担を今増やすことは、コロナ対応を遅らせることにもなりかねません。

 本来、新しい組織をつくるという話は、時間をかけてじっくりやるべきで、いきなり「来年度作ります」というのはそもそも無理筋です。どういう事務事業が必要で、それをどう整理し束ねるか。それを詰めてから、じゃあそのためにどういう組織が必要か、という議論の順番であるべきなのに、「まずこども庁ありき」になっています。おそらく与党の選挙対策という面もあるのでしょうが、あまりに拙速な進め方では選挙対策にもならないと思います。

 アメリカはバイデン政権が出来てもう100日を過ぎましたが、この間、ワクチン接種も順調にすすんでいます。また総計で600兆円を優に超える経済対策を打ち出しています。3月に200兆円を超える「米国雇用計画」を発表、4月にはおよそ190兆円もの「米国家族計画」を発表しています。この「米国家族計画」では子育て世代への税額控除、幼児教育の機会拡充、出産や介護のための育休制度の確立といった具体策が盛り込まれています。同じ時期に同じような問題を抱えている日本がしていることは、こども庁の組織の議論――。アメリカのやっていることが全て正しいわけではありませんが、日本はどうもものごとの優先順位を間違えているようにしか思えないのです。まずは、親や子どもに寄り添う人員の確保などに努めるべきでしょう。