北朝鮮幹部に大々的に批判されると交代させられる韓国の閣僚たち

 もう少し詳しく説明しよう。

 大統領府は、朝鮮半島の平和プロセスや朝鮮半島の非核化政策に鄭室長が関与してきた点を高く評価し、「文政権の外交懸案に対して深い理解と洞察がある」と強調している。これは「米韓関係」ではなく、「米-韓-朝関係」に重点を置いている証拠だ。

 正統な外交官僚で「米国通」とは言え、鄭氏はトランプ政権のパートナーだった。バイデン政権と新たに関係を構築しなければならない状況で、あえてトランプ政権のホワイトハウスチャンネルだった鄭氏を外交長官に任命したのは、トランプ政権で行われた米朝対話が続くようバイデン政権を説得するためだ、という主張のほうが韓国内ではより真実味をもって受け止められている。

 もう一つ、康長官の交代にも北朝鮮の影響が働いたという説もある。

 昨年12月、康長官は国際会議席上で「北朝鮮は韓国の新型コロナ対応支援の提案に反応していない。このことが北朝鮮をさらに北朝鮮らしくしていると思う」と発言したが、これに対し、北朝鮮の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長は激しく反発した。金氏は談話で康長官を取り上げ、「生意気な妄言」、「末長く記憶する」、「正確に計算しなければならない」と述べた。康長官の電撃交代はその1カ月後になる。

 韓国では過去にも、金然哲(キム・ヨンチョル)元統一部長官や鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)元国防部長官が、金与正氏や金英哲(キ・ヨンチョル)党中央委副委員長の非難談話後に更迭された前例があるだけに、康長官交代も金与正の「デスノート」のせいだという分析も出てきた。

 この分析について前出の韓国記者は次のように説明する。

「大統領府は急いで記者らにメールを送り、〈金与正氏のデスノート説〉を否認した。『国論を分裂させる無理な推測でまったく事実ではない』と強調し、『すでに康長官が何度も辞意を表明しており、バイデン政府の誕生に合わせて新しい外交安保ラインを構築しただけ』という説明だった。もちろん、私も大統領府の説明が事実だと思う。たが、韓国国民の間では『文在寅政権は北朝鮮の言いなりになっている』と批判が高まっている。韓国の外交相手は北朝鮮だけではない。対米外交や対日外交にもより慎重にならなければいけない」

 外交部長菅交代の理由はどうであれ、私個人は、今回の人事が文在寅政権の近隣外交に及ぼす影響は極めて限定的になると見ている。